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専業主婦!  作者: せりもも
第3章 隣の道路族
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太った白菜を探しに


 全てを制御し、マーチの運転席に座る私は、得意だった。この雄姿、真紀子に見せてやらねば。

 真紀子は、年が明けたら一時帰国すると言っていた。



 「帰りは、バスで帰る。明日からは自転車で行くから」


 ところが、車での送迎の初日、駅に着くやいなや、いきなり、雪美から言い渡された。


「だって、帰りは遅いじゃない。それに寒いし。風邪でも引いたら、どうするの」


 今年は、雪美はもちろん、美弥も私も、早々にインフルエンザの予防接種は済ませてしまっている。しかし、だからと言って、試験間近になって、風邪にかからないという保証はない。


「大丈夫。バスの中は、暖かいから」

「バス停からうちまで、歩かなくちゃ、ならないでしょ!」


 なおも私は、車で迎えに行くと申し出たが、雪美は、その必要はない、とつっぱねた。


 もしかして、さっき交差点を右折しようとした時のことが、まだ気になっているのだろうか。


 向こうから来た直進車が、止まってくれた。感謝しつつ、右へ曲がろうとしたのだが……ちょっとばかり、ふくらんでしまった。

 結果、危うく突っ込みそうになってしまったわけだが……。

 親切にも止まって待っていてくれた直進車に。


 運転手の怯えた顔が目に浮かぶ。

 やだ、ぶつかりはしないわよ!


 それで、雪美も、怯えちゃったとか?


 しかし、あんなのは、普通に運転していれば、よくあることだ。

 雪美は普段、あまり車に乗らないから、特別なことのように思うのだ。



「とにかく、いいから。バスは、遅くまであるし」


 雪美は、頑固だった。


 せっかく、練習したのに。

 莫大な、お金が、かかったのに。


 くるりと雪美は背を向け、駅の雑踏に消えていった。




 しょんぼりと、家路を辿る。


 仕方がないから、美弥を乗せて買い物にでも行こうかと思った。

 

 そろそろ、白菜が出回っている。キムチを作らなくっちゃ。


 インターネットでみると、キムチって、意外と簡単に漬けられるらしい。国際化の時代だもの、漬物だって、いろいろトライしてみなければ。それが、賢い主婦というものだ。


 だが、白菜は重い。そして私が欲しいのは、よくしまった、ずっしりと太った白菜だ。

 車はやはり、便利だ。



「あ、ごめん、えと、ちょっと用事が……」


 車でお出かけ、と聞いた途端、美弥の目がきょどる。


「え? 一緒に行こうよ。美弥の大好きな、ゴックリチョコ、買ってあげるから」


「ゴックリチョコ……いらない」


 大好きなキャラクターのおまけつきのチョコレートでも、釣ることはできなかった。


 大慌てで、家を飛び出していく。

 これから、ヒメちゃんたちと遊ぶ約束があるのだそうだ。







 そもそも、美弥も雪美も、まるで真紀子が乗り移ったかのように、私の教習所行きには、賛成していなかった。


 まあ、この子たちが生まれてから一度も、ハンドルを握ったことがないのだから、運転する私のイメージが湧かないのも、しかたのないことなのかもしれない。


 いや、雪美と美弥はいい。

 問題は、いつも道路にこぼれている、斉藤家の子ども達である。



 親戚の子だか友達の子だかも含め、常時10人近い子ども達が道路で遊んでいるのだが、私が車を出そうとエンジンをかけても、よける気配がない。


 というより、私のことをまるきり無視しているというのが、正解のようだ。


 クラクションを鳴らしても平気のへいざ。


 あいかわらず、道路のど真ん中で大騒ぎを繰り広げている。中には、キックボードに乗ってよろめきつつ、私の車めがけて突っ込んでくる子もいる。

 もう、怖くてたまらない。


 あのね。

 私は、運転、慣れてないのよ。

 今日も、教習所の指導教官が、私の名前の入った事故の記事を探しているのよ。



 一緒に遊んでいる斉藤さん夫婦も、口では、「車だよー」と言うが、言うだけである。


 そういえば、時折外から、「危ないッ!」という真に迫った母親の叫び声が聞こえることがあるが、あれはいったい、どういう状況なのであろうか。


 私が運転している時にあんな声で叫ばれたら、即座に正確な判断が下せる自信がない。

 この道を、クラクションを鳴らしつつ通るドライバーは、すごいと思う。









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