〜第一話 Prologue〜
こんにちは。しゅがーです。
小説なんて執ったことがないもので、何かと微妙な点があるかと思いますがご承知ください。
自伝をベースに、私達の理想郷が幕を開ける。
あの日と似た、夜の街の静けさ。
吐き出した息が白く濁り、夜の闇に吸い込まれていく。けれど、不思議とどこか落ち着くような暖かさを感じる。
それは冬の名残を孕みながらも、どこか春の湿り気を帯びた、曖昧で、それでいてひどく優しい温度だった。
半年ぶりの終演。
私は隣を歩く一輝の肩を軽く叩き、少し時期外れなその一言を呟いた。
「お疲れ。最高の『喜劇』だったな」
一輝は何も答えなかった。ただ、暗いスマホの画面を見つめたまま、微かに唇を噛む。
その横顔を見ながら、私は思う。
あの言葉の裏に、どれほどの涙が隠されていたのだろうか。
私が書き換えた台本の余白に、どれほどの「本当」が切り捨てられてきたのだろう。
もし、人生に「最高の数ヶ月」があるのだとしたら。
それは間違いなく、やかましくて、クズで、どうしようもなくて。
それでも、それぞれが握りしめたパズルのピースを、命がけではめ込もうとしていた、あの3年3組の3学期だった。
私たちが噛み合ったのは、あの歪で仕方ない演劇のせいだった。
単に最も美しく、最も砕けていた全ての思い出を振り返る。
まだ誰も、自分が誰を傷つけるかさえ知らなかった、あの秋の教室へ。
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【EP1:20XX年9月-みっちーの独白】
総合学習発表会。毎年3年生の各クラスで演劇が行われる伝統的な行事。長い夏が明けて、普段の活気を思い出した私たちに向けられた一つの挑戦状でもあった。
白雪姫。私たちに課せられたお題はそれだった。課せられた、といっても、実行委員がそれを選んだだけなのだが。
いや、白雪姫といえば語弊がある。これは世界のありとあらゆる童話の世界線が交錯するパラレルワールドのお話。なんとも奇想天外で、私たちの喧騒さを体現させるにもってこいの台本だった。
とんとん拍子で役者が選出されていく。白雪姫の雪乃ゆきのを筆頭に、まともに演技ができるとは思えない狂人たちが続々と名乗りをあげていった。かくいう私も例外ではなく、小学校からの旧友である峰田みねだや山名やまなと共に「こびと7人衆」として立候補した。
こびと7人衆。その中に、「泰雅」や「一輝」ってのもいた。今だから言える。パラレルワールドの中の、「白雪姫」私たちはそれを演じたことが最大の成功で、同時に最大の失敗だった。
台本の読み合わせを行い、教室内にキャストの声が響くようになった。
「おい白雪姫ェ!テンションが足りないぞ!!」
「負けてねぇよ魔王!テメェの顔の圧が強すぎんだろ!!」
そう、キャストの中に、魔王ってのがいた。河村っていうやつだったが、いかんせん覇気がない。というか、人間として覇気があるタイプじゃない。おちゃらけたムードメーカーだった。周りもその雰囲気を感じてか、彼の衣装は絶望的なものにされた。役にならないのなら、存在で笑いを取ってしまえという強い意志を感じる。
それでも、全身金タイツの魔王はいかがなものかと思うのだが。
こんなことを練習中に度々重ねてしまう私たちは、ある意味で大成功なのかもしれない。尤も、演劇にテンションが関係あるのかはよく分からないが。罵声とも笑い声ともつかない咆哮が飛び交う教室で、私たちはその熱量だけで繋がっていた。
その狂騒に、さらに油を注ぐのが「こびと7人衆」だ。峰田や山名も、本来なら主役を立てるべきこびとの本分を忘れ、教室の隅からヤジを飛ばす。
「魔王ー! タイツ食い込んでるぞー!!」
「今の声ウザすぎだろ何だ今の!」
あるとき、そんな魔王に映像担当がひとこと。
「劇中CM作りたいから、お前を撮影させてくれ。」
なにも考えず、快く了承した河村だったが、彼の映像があらゆる用途で曲げられたことはもはやいうまでもない。しかし、このCMに問題が生じる。
「これ、音声を使うのは著作権的に問題がありそうやな」
映像担当が音響担当の小鳥遊と吉沢に告げる。そんなことを気にするなら映像内にいる全員金タイツのバケモノの肖像権への配慮から改めろ。
そんな話を、休憩中に聞いた私。
「いいよ。俺、劇中BGMくらいなら作れるさ」
「みっちー曲作れるなんていってたな!」
小鳥遊が驚いて声を上げる。勢いで突っ込んだものの、音響担当の2人と特段仲が良いかと問われれば怪しい。両方とも異性であるかつ、去年から一緒のクラスで少々の関わりがあってしまったのが苦しいものだ。
小鳥遊琴音女子テニス部であったことは覚えている。むしろ、それくらいの関わりしかなかった。みっちーなんてあだ名で呼ばれてはいるが、相手からしても「男テニにいたなあ」くらいの存在なんだろう。
吉沢美結。彼女もそれと同等の接点しかない。昨年、企業向けに企画を立案して発表するなんてことがあったが、そこでは一緒の班だった。そのときは親友の山名が同席していた故なんとかなったが、気まずかったという印象しかなかった。
そんなこんなで、極めて短くはあったが、10数秒程度の専用BGMも作成し、裏方準備は整っていた。一方、キャストとしての役割も十分にこなし、各演者との連携もしっかり繋がってきて、いよいよ完成形といった具合だろう。
こうして、僕たちは知らず知らずのうちに、一つの「舞台」へと吸い込まれていった。キャストも裏方も、誰もが自分の役割を全うすることだけを考えていた。
キャストだけでなく、全員が主役で、全員が暴動。それが、僕たちのパラレルワールドだった。
その台本の裏に、台本にはない『嘘』が待っていると知らずに。
この先、集まった10人で、どんな未来が待ち受けているか。そんなの、誰1人予測していなかった。
ご精読ありがとうございます。
6話完結+長めのエピローグの全7話でお送りする予定でございますが、既に7話まで執筆は終わってる故、途中で飛ぶ懸念に関しては問題ないかと思われます。
今後とも当作品をよろしくお願いします




