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第11話 再会と揺れる感情

久しぶりの再会回になります。


今回は佐伯側の揺れる感情を中心に書きました。

拒絶したいはずなのに、安心してしまう。

そんな危うい空気を感じてもらえたら嬉しいです。



高瀬と再会すると決めた時から、

佐伯の心はずっと落ち着かなかった。


行かなければいい。


連絡を返さなければよかった。


待ち合わせの店へ向かう途中、

何度もそう思った。


それでも足は止まらなかった。



店に入った瞬間、

佐伯の視線は自然と奥の席へ向いてしまう。


高瀬は、もうこちらに気づいていた。


静かに座ったまま、

まるで佐伯が来ることを最初から分かっていたように視線を向けている。


その姿を見ただけで、

胸の奥がわずかにざわついた。


怖い。


本当は、会うべきじゃない。


あの日のことを忘れたかった。


忘れなければいけないと思っていた。


それなのに——


「……久しぶり」


低く落ち着いた声を聞いた瞬間、

張り詰めていた緊張が、ゆっくりほどけていく。


安心してしまった。


その事実に、

佐伯自身が一番動揺していた。


「……うん」


短く返事をして、

向かいの席へ座る。


沈黙が落ちる。


普通なら気まずいはずだった。


聞きたいこともある。


責めるべきことだってある。


それなのに、

不思議なほど静かだった。


高瀬は何も聞かない。


仕事のことも、

家庭のことも、

あの日のことも。


無理に距離を縮めようともしない。


ただ自然に、

佐伯がここへ来たことを受け入れている。


その空気が、

苦しいほど心地よかった。



やがて高瀬が、

小さく息を吐く。


そして静かに、

テーブルの上へ小瓶を置いた。



その瞬間、

佐伯の呼吸が止まる。


見覚えのある小瓶。


忘れられるはずがなかった。


理性を壊し、

身体を狂わせ、

心の奥にまで入り込んできたもの。


駄目だ。


そう思う。


触れてはいけない。


もう戻れなくなる。


頭では、ちゃんと分かっていた。



それなのに——


視線が離せない。


胸の奥が熱くなる。


怖いはずなのに、

別の感情が静かに広がっていく。



——また、欲しい。



その感覚に気づいた瞬間、

佐伯の背筋が震えた。


違う。


こんなものを求めているわけじゃない。


忘れたかった。


終わらせたかった。


高瀬とも、

もう会わないつもりだった。


それなのに。


小瓶を見つめているだけで、

胸の奥に残っていた空白が、

少しずつ満たされていく。



高瀬は何も言わない。


飲めとも言わない。


欲しいのかとも聞かない。


ただ静かに、

佐伯が選ぶのを待っていた。



逃げるなら、今しかない。


まだ間に合う。


そう思いながら、

佐伯の指先はゆっくりと小瓶へ伸びていく。


触れた瞬間、

身体の奥がわずかに震えた。


「あ……」


小さく漏れた声に、

高瀬が静かに視線を上げる。


その目を見た瞬間、

佐伯は理解してしまった。


自分は本当は、

ここへ戻ってきたかったのだと。



高瀬が静かに口を開く。


「……部屋に行こうか」


拒絶するべきだった。


断るべきだった。


それなのに佐伯は、

迷うことなく小さく頷いていた。


——もう、自分はこの人から逃げられない。



読んで頂きありがとうございます。


高瀬は無理に壊そうとしているわけではなく、

佐伯自身が少しずつ戻ってしまう形を意識して書いています。


次回からは、二人の関係もさらに変化していく予定です。

感想や反応、本当に励みになっています。



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