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35分の記念日  作者: 芒雲 紘真
第六章:35分のクリスマス会
30/33

ページ29 初詣と友情

年が変わる。

12月31日から1月1日になると、新しい年になる。

抱負を言って新しい自分になろうとする。

そんなことをしなくても、澪にとっていつも新しい日常だった。

覚えたいことを忘れる。

いや、忘れているから覚えたいかどうかすら分からない。

日記に書いていないと。

でも初めて日記に書いてないことを覚えている。

忘れたかったことを。


年始にやることは他にもある。

初詣だ。

澪は初詣の相手に陽菜を選んだ。

理由は、誘われたのが陽菜だけだったから。

おみくじは吉だった。

可もなく不可もなくといったところだ。

陽菜は末吉だった。

こちらも何とも。

出店の梅ヶ枝餅を買い、2人で公園のベンチにかける。


しばらく2人は黙っていた。

今すぐにでも室内に入りたいほど寒いはずなのに、どちらも口にはしなかった。

きっとここなら誰にも話せると都合が良かったからだ。

なのにお互い何も話さなかった。

陽菜は自分で話さないといけないことは分かっていた。

自分だけのはずだ。

でも澪の様子は何かを話したいようだった。

きっと見られた。そして覚えている。

「キス……」

澪が呟いた。

最後まで聞かずに陽菜が答える。

「ごめん。」

そのまま白い息だけが数回交わる。

風はどちらとも決まらず、ただ凍てつかせた。

 

「なんであんなことしたの?」

「……」

 

「……好きなの?」

「分からない。」

 

「じゃあなんで?」

「……」

 

「もし陽菜ちゃんが好きなら、私は身を引くよ。」

「なんでそうなるの?」


「だって陽菜ちゃんしっかりしてるし、颯太は優しいしお似合いだよ。」

「あんた達のがお似合いだよ。だからきっと嫉妬したんだ。」


「じゃあ、やっぱり好きなの?」

「好きとは違うと思う。羨ましかった。」


「羨ましい?」

「あんた達のお互い想い合う姿見てたら。」


「でも、やっぱり私は颯太にも陽菜ちゃんにも幸せになって欲しいな。」

「……。澪ってそういうとこあるよね。」


「そういうとこ?」

「人の気持ち考えないっていうか。」


「考えてるよ!だから幸せになって欲しいの!私の友達でいてくれた陽菜ちゃんにも。私なんかを好きになってくれた颯太にも。」

「だからそれが考えてないって言ってんの。自分の気持ち押し付けてるだけじゃん。」


「そんなこと言ったら陽菜ちゃんはお節介だよ!」

「あーあー。そうですよ。お節介ババアですよ。」


「誰もババアまで言ってない!」

「言ってるようなもんでしょ。」


「いっつも私の心配ばかりして!」

「いっつも心配かけるようなことばっかして。」


「私が落ち込んだら慰めもしないで傍にいるだけだし!」

「自分のこと可愛いの分かってて、いじけたフリするし。」


「私の残したご飯も食べるのに、私より細いし!」

「食べれないくせに、いっぱい頼むし。」


「なんか、なんかいい匂いするし!」

「覚えてないくせに、プレゼントばっかするし。」


「あとは、……えっと」

「途中からそれ貶してんの?」


「うるさい!私は陽菜ちゃんが大好きなんだよ!」

「……」


しばらく沈黙になってから陽菜が語った。

"""

私はあんたのこと嫌いだった。

みんなからチヤホヤされるとことか。

そんなあんたに絡まれた時、鬱陶しいと思った。

そして事故にあって正直、最初は義務感で一緒にいた。

でも段々と友達として大事になってきて。

そんな澪を傷つけるかもしれない颯太が鬱陶しくなった。

でも澪の記憶障害のことを知っても、諦めないその姿に惹かれていったんだと思う。

さっき話した通り、2人の関係が羨ましくも見えた。

澪の隣にいる颯太も。颯太の隣にいる澪も。

"""

最後に「だから離れちゃダメだよ。絶対に。」とだけ付け足した。


グスッ。

澪が泣いていた。

泣ける場所はあったような、なかったような。

どこで泣いているかは分からなかった。

「どこで泣いてんの?」

「友達になる前、嫌いだったの?」

「そこか。」

ツッコミたくなるような、まあでもこれが澪だとも思った。

それにしても澪の涙を久々に見ると陽菜は思った。

慰めもせず、話もせず、陽菜はただ横にいた。

「泣くのって思ったよりも悲しくないんだね。」

人外のものが感情を知ったかのようか表現にツッコミたいのを抑えて、「ん?」とだけ聞いた。

「陽菜ちゃんが居てくれるからかな?泣いてるのに嬉しいというか、落ち着く。」

夜には涙活というものもあるらしい。

その効果があるかもしれない。

でも陽菜が隣にいるからというのは関係ないんじゃないかとも思った。


「私、決めた。手術受ける。」

「うん。ん?はぁ>%@!?」

陽菜はこの日初めて感情の籠った言葉を発した。

いや、言葉には出来ていなかった。

「手術って何?」

「記憶障害、治るかもしれないんだって。」

「じゃあなんで迷ってたのよ。」

「もしかしたら、他の記憶は全部消えるかもしれないって。」

「全部って。」

「全部。陽菜ちゃんと友達になれたことも。大輔くんや彩花ちゃんとクリスマスパーティしたことも。」

――颯太くんと出会えたことも。

「でも、私には陽菜ちゃんがいてくれるから。だから大丈夫だって。今思えたんだよね。」

「それは買いかぶり過ぎ。」

陽菜は顔を下げた。

「え?えっ!?陽菜ちゃん泣いてるの?」

「泣いてない。」

陽菜は自分でも嬉しかった。

手術の決めてが颯太よりも自分だったから勝ったと思ったんだろうか?

いや、そんな難しい話じゃない。

嬉しかったんだ。

友達として。単純に。

「しょうがないから、これからも友達でいてあげるよ。」

「やったー!約束だよ!」

冗談とも嘘とも疑わない。

橘陽菜の大事な友達はそういう人だった。


陽菜は帰り道に思った。

「恋は目覚めるもので愛は育てるもの」だと。

だから自分の颯太への気持ちは、急に芽生えた恋なのかもしれないと。

でもそれ以上に大事に育ててきた友情としての愛がそれを勝っていることを知った。

それと同時に、きっとどう頑張ってもあの2人の育ててきた愛に入り込むことなんて出来ないと思った。

記憶には残っていない。

普通のカップルよりも思い出が少ないはずなのに、あの2人にはそれを超える強い思い出があるように思えた。

育てるのに大事なのは時間じゃない。

知ることだ。

記憶に残らないからこそ2人は知ろうとした。

お互いのことを、そして自分のことを。

きっとこの2人ならまた恋に目覚める。

そしてより大きな愛を育てられる。

陽菜は、そう信じていた。

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