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35分の記念日  作者: 芒雲 紘真
第五章:35分のピクニック
24/35

ページ23 告白と紅葉

地獄のピクニックはお酒だけが進み、気づけばなくなっていた。

「俺、買ってくるわ。」

この大輔の提案に颯太も着いていくことにした。

颯太は澪に目配せをする。澪も颯太と目を合わせて頷く。

「俺が大輔を宥める。その間に澪は陽菜さんを頼む。」

「オッケー。こっちは任せて。」

颯太と澪の目配せではこういう会話が無言で交わされた。正式に付き合ったからか、この雰囲気のせいか、二人のシンパシーは前よりも息を合わせ、無言の会話まで成立させた。

女性陣二人と離れると先に切り出したのは大輔だった。

「やっぱ俺と陽菜ちゃんは合わないのかな〜。」

気を遣われている。颯太はそう感じた。

陽菜を紹介したのが颯太である手前、無下に陽菜を批判は出来ない。

あれだけの態度だと普通は怒ってもしょうがないが、ここで気を遣うのが大輔という人間だ。

「やっぱり大輔には彩花ちゃんだったんだろうね。」

ふと零れた。でも本音でもあった。

「やっぱり諦めるにしてもきっぱり振られないとな。」

大輔のそのひと言に颯太は驚いた。

大輔の落ち込みようから、てっきり振られたもんだと思っていたからだ。でもよく考えたら「別れた」という報告しか受けていない。

颯太には経験がないから分からないが、好き同士でも別れるということはあるのだろうか。ニュースでよく聞く「価値観の違い」による離婚も、好きという理屈だけではないのだろう。

 

自動販売機の前に着いた。

大輔がコインを入れて、ボタンを押す。

缶が落ちてくる音がした。颯太も同じものを買った。二人でプルタブを開けて、少し飲んだ。

「大輔にも、新しく好きな人できればいいな。」

颯太はそう言った。自然に出た言葉だった。大輔の力になりたかっただけで、深い意味はなかった。

大輔は何も言わなかった。

缶を持ったまま、少し遠くを見ていた。

返事を探しているのか、それとも何かを迷っているのか、颯太には分からなかった。

その沈黙が少し長かった。颯太は話を変えることにした。

「……陽菜さんって、好きな人いんのかな。」

軽い感じで言ったつもりだった。ただの話題転換のつもりだった。

 

「お前だ。」

大輔が答えた。

「……え?」

颯太は聞き返した。陽菜が、颯太を好き。颯太の頭がそれを処理しようとした。でも上手く処理できなかった。陽菜はずっと颯太を警戒していた。睨んでいた。澪から離れろという目をしていた。それが好き?

「は?陽菜さんが俺を好きなわけ……。」

「俺の話だ。」

大輔が静かに言った。

颯太の思考が止まった。

「さっき聞いたろ。新しく好きな人できればいいなって。」

大輔は缶を見ながら言った。颯太の方を向かなかった。

「その答えを言った。」

風が吹いた。木の葉が揺れる音がした。自動販売機のモーター音だけが、二人の間で鳴り続けていた。

颯太は何も言えなかった。

言えなかったのは、驚いたからだけではない。怒りも、嫌悪も、なかった。ただ、何をどう返せばいいのかが、全く分からなかった。

大輔は同性が好きだ。その事実が颯太の中に落ちてきて、颯太はそれをどこに置けばいいのか分からないまま立っていた。

「……。」

颯太は口を開いたが、言葉が出なかった。

大輔は颯太の顔を一度だけ見た。颯太の表情を確認するような目だった。そして缶を持ったまま、「戻ろうか」と言った。

颯太は頷いた。

二人は並んで歩いた。行きと同じ道を、同じ速度で歩いた。でも行きとは全然違う沈黙が、二人の間にあった。

颯太は何か言わなければいけないと思った。でも何を言えばいいのか分からなかった。謝るのも違う。大丈夫ですよと言うのも違う。なかったことにするのも、それはそれで失礼な気がした。

だから何も言えなかった。

 

ピクニックの場所が見えてきた。

そこには、さっきまでとは全く違う光景があった。

陽菜と澪が、楽しそうに話していた。

澪が何かを話して、陽菜がそれに答えて、二人して笑っている。陽菜が笑っていた。あの陽菜が、颯太と澪が離れたこの短い時間に、笑っていた。

颯太は少し足を止めて、その光景を見た。

大輔も隣で同じものを見ていた。

「よかった。」

颯太は小声で言った。大輔に向けたわけでも、澪に向けたわけでもなく、ただ口から出た。

大輔は何も言わなかった。

でも颯太の隣で、缶を一口飲んだ。

二人はシートに戻った。

陽菜は颯太を見て、またいつもの無表情に戻った。でもさっきまでとは少しだけ違う気がした。棘が、ほんの少し引っ込んでいた。

「お待たせ。」

大輔が缶を澪の前に置いた。澪が「ありがとうございます!」と笑った。

その後は、何事もなかったかのようにピクニックは続いた。

話題は紅葉のこと、次の季節のこと、何でもないこと。

颯太は大輔と目を合わせなかった。

大輔も颯太に話しかけなかった。

でも四人の中ではちゃんと笑っていた。

どちらも、笑えた。

それで十分だった。少なくとも今日は。

ピクニックは夕方前に終わった。澪と陽菜が先に帰って、颯太と大輔が後片付けをした。二人きりになっても、大輔と颯太は特別な話をしなかった。シートを畳んで、ゴミをまとめて、それだけだった。

「じゃあな。」

「また。」

それだけを言って、二人は別の方向に歩いた。

颯太は一人になってから、今日のことを頭の中で整理しようとした。整理できなかった。でも一つだけ分かったことがあった。

大輔は颯太の友達だ。今日のことがあっても、それは変わらない。

そのことだけは、ちゃんと分かった。


大輔は帰りながら1人考えた。

愛と恋の違いとはなんだろうかと。

颯太と澪との関係は紛れもない恋で。

陽菜の澪を思う気持ちは愛なんだろう。

でも、愛も恋もどちらも英語にしたら同じLoveだ。

自分の颯太に対する気持ちもLoveだ。

でも自分が颯太と付き合いたいかと言われたら、そういう訳では無い。

日本語とはなんて感慨深い言語なんだと思う。

振り返ると山々が夕日に照らされて轟々と燃えていた。

Loveの炎みたいなそんな力強い感情は大輔にはなかったのだ。

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