ページ19 観覧車と嫉妬
澪と颯太。彩花と大輔。
このダブルデートは、彩花が煽り、澪がそれに乗り、颯太がのぼせる程熱くなる。そんな激動のダブルデートも後半戦を迎える。
動きがあったのは、彩花のひと言からだった。
「もう1回乗ろうよ、観覧車。」
これではない。
この言葉では今日初めて息があったのではないかと言うくらい、澪も賛成していた。
問題はこの後だ。
「ペアを交代して。」
お互い男女を入れ替えて、澪と大輔、彩花と颯太ペアに分かれた。彩花も澪もさすがに人の男に腕組はしなかった。颯太は安心した。
ペアを変えるといっても、お互いにお互いを意識してか同じアトラクションを選択していたので、ほぼ四人で回っているようなもんだ。
とはいえ、少しずつ距離ができていく。
颯太は彩花と並んで歩きながら、少し前を行く澪と大輔の後ろ姿をちらちらと見ていた。澪は大輔に何か話しかけていて、大輔が頷いている。二人ともこちらを振り返らない。
「颯太くん。」
彩花に呼ばれて颯太は視線を戻した。
「うちの彩花がやらかさないといいけど、って大輔に言われてたでしょ。」
「……どこで聞いてたんですか。」
「女の勘。」
彩花はあっけらかんとそう言って、少し笑った。
颯太も苦笑した。
やはり逆はすごい。そして怖い。
これが女の勘と言うのならば、颯太の
(どっちが先にやらかすか分かんないですよ。)
と言うのも澪にバレたかもしれない。
いや、確かにあの時の澪は何やら燃えていたしやらかしそうだなとは思ったけど、男子のやり取りというかノリというか。と誰にも聞こえない言い訳を心の中でする。
もう1度並ぶ時、後ろ側だった彩花と颯太は澪たちと一組別のお客さんを挟んで並んだ。並ぶ直前に彩花が靴紐を結んでいたので先に譲ったのだ。
「澪ちゃんには、ちょっと意地悪しすぎちゃったかな。」
彩花が颯太に話しかけてきた。話しかけてきたのを見て颯太は思った。靴紐はわざとだと。
「なんで意地悪したんですか。」
颯太は素直に聞いた。
彩花は少し間を置いた。
「大輔がさ、颯太くんの話ばっかりするんだよね。颯太がこうで、颯太がああで。颯太の好きな子がどうとか。なんか……その子のことが羨ましくなっちゃったんだと思う。」
颯太は少し驚いた。羨ましい。大輔の彼女が、大輔の友達の恋愛を。
「それで澪さんに当たったんですか。」
「当たったというか、試したかったのかな。颯太くんのことを本当に好きなのかって。」
彩花は前を向いたまま言った。その横顔は、さっきまでのギャルの顔ではなかった。少し素の顔に見えた。
「……どうでした。」
「合格。」
彩花は笑った。今度は本当に笑っていた。
まずは大輔と澪。
そして1つ挟んで、颯太と彩花の順にゴンドラに乗り込む。
「今日はごめんね、うちの彩花が。」
ゴンドラに乗り込むなり、大輔が澪に謝る。
正確には今日だけではなく、ダブルデートを提案したあの日からなのだろうが、ひっくるめて今日とした。
「ううん。私もなんか意地張っちゃった。」
「そう、意外だったんだよね。」
「意外?」
「あの、言いにくいけど澪さんって颯太とデートした記憶ないんだよね?なのに意地張るっていうのが。」
「あぁ、それは」
澪は口を噤んだ。
颯太に宣言した重大発表の内容だっから。
颯太への1番の約束を破ることになるから。
ゴンドラは高さが半分になるくらいまで静かだった。
「颯太ってさ、」
先に口を開いたのは大輔だ。
「結構、鈍感なところあるんだよね。」
どういう意図でその話題にしたのか大輔にも分からなかった。
共感して欲しいのか、はたまた颯太の欠点を話して嫌いになって欲しかったのか。
もしかしたら怒らせたかも、とも思った。
しかし、大輔の切り出しは正解だった。
「そうなんだよね。結構ヒント出してるっぽいのに気づかないの。」
ヒント?とは聞き返さなかった。
おそらく澪が颯太のことを好きだということだろうと分かったからだ。
「おお、これまた意外。でもそんなとこがいいんでしょ?」
「ま、まあ。」
澪は濁した。どうやら、颯太のことが好きだということは明言したくはないらしい。
「あと、服のセンスがない。」
「だよね!」
また共感する。
澪はスマホを取り出し、写真フォルダを漁る。
そこにはこれまでの颯太と澪の思い出が刻まれていた。
「これとか!」
澪から見せてもらった写真は確かにダサかった。
「よくこれでデート行くよな」
と颯太は笑う。
その後も、颯太のいいところ悪いところお互いに言い合って共感しあった。
4人ののゴンドラが頂上を過ぎる。
遊園地が全部見渡せた。颯太は自然と下を探した。大輔と澪のゴンドラを。
窓越しだから表情は分からない。でも二人が向かい合って、何か話しているのは見えた。澪が手を動かして何かを説明しているように見えた。大輔が頷いている。
「……楽しそうだね。」
彩花が窓の外を見てぽつりと言った。
確かにそう見えた。お似合いだった。
でも口には出さない。
出してしまうとそうなってしまうんじゃないかと思ったからだ。
おそらく彩花も同じことを思っている。
同じゴンドラにいるからか、同じ景色を見ているからか。
不思議と疑いようもなくそう思えた。
「颯太くん今、嫉妬したでしょ。」
同じじゃなかった。
彩花は颯太よりも1歩も2歩も先を見ていた。
自分の心が見透かされていたなんて。
これも女の勘というやつか。それともギャルだから?
「それは彩花さんもでしょ。」
負けじとそう答えると、
「彩花でいいよ。」
颯太への難題を課せられた。
「まあ、大丈夫でしょ。あの2人が結ばれることはないよ。」
その言葉をなぜそう言い切れるのかという疑問と同時に、
強がりのようにも颯太には思えた。
「まあ、そうですね。」
根拠もなく颯太は答える。
「ほら、彩花って呼んでみ。彩花様でもいいよ。」
颯太に難題のチャレンジが課された。
おそらく、悪くなった雰囲気を良くしてくれようとしてくれたのだろう。
でもそのノリには乗れなかった。
ここで楽しんでいるところを澪に見られたくなかった。
いや、例えるならば浮気証拠を突きつける時にこちら側の隙を見せたくなかった。
多分そんな感じだと思う。
「彩花...さん。」
「おい、ウブかよ。」
会話だけは楽しそうなゴンドラはまもなく、ゴールを迎えようとしていた。




