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35分の記念日  作者: 芒雲 紘真
第四章:35分の遊園地
19/33

ページ18 ダブルデートと重大発表

遊ぶ前の日の男女が連絡を取り合う。

「どこに行こうか」「楽しみだね」そういったやり取りが普通は行われるのだろう。

実際、颯太と澪も何度もデートはしている。そういうやり取りもしたことはある。

しかし、今夜は違う。

例えるのならば、これは軍事会議だ。

最初に来たのは「遊園地のマップ調べました!」という澪からのLINEだった。続いて「おすすめアトラクション順番まとめました」。さらに「ランチのお店候補三つ挙げました。投票お願いします」。颯太が返信するたびに次の議題が飛んでくる。深夜の十一時を過ぎても止まらなかった。

澪は彩花のことを強く意識していた。

澪の一生懸命さが文面から伝わってきて、颯太にはそれが嬉しかった。澪がこんなに何かに向かって準備をしているのを、颯太は初めて見た気がした。記憶が続かなくても、こうして前の日から動ける人なのだと分かって、颯太は少しだけ胸が熱くなった。

「颯太くんはどっちのコース乗りたい? Aが激しめ、Bが景色きれい系です」

「Bで。」

「即答! 分かりました! あと颯太くんは観覧車好きですか?」

「まあ好きですよ。」

「やった! 絶対乗ろうね!!」

ビックリマークが二つついていた。颯太は画面の前で、また表情が緩んだ。

 

翌朝、颯太は待ち合わせ場所に着いた。澪は既にそこにいた。

「昨日はごめんね。」

颯太が着くなり澪が謝ってきた。おそらく昨日の軍事会議が盛り上がった件だろう。

「せっかくのデートの話なのに、なんか燃え上がっちゃって。」

予想通りの内容と共に、少し頭を下げる。

「でも、颯太くんの顔見たらなんか安心しちゃった。」

颯太は胸を打たれた。

最近LINEでも、こういった嬉しい言葉が増えた。澪にデートの記憶が残ったからだろうか。

嬉しい。しかし、慣れない。こういった言葉をかけられる度に、颯太は胸を撃ち抜かれる。文字通り、銃で打たれたかのように。

そうこうと話しているうちに、少し遅れて大輔と彩花カップルも到着する。

「お待たせ〜。」

彩花が先に歩いてきた。大輔がその少し後ろをついてくる。颯太には、大輔のその歩き方が少し面白かった。普段はもっとしゃんとしているのに、彩花の隣だと半歩後ろになる。

到着まで普通にしていた二人だが、彩花は澪と颯太の初々しい様子を見るなり、見せつけるかのように大輔に腕を組む。その煽りに簡単に乗り、澪も颯太に腕を組む。

颯太は今にも沸騰しそうなくらい顔が赤くなった。

大輔は落ち着いた様子で颯太を見ていた。彼らにとっては日常なのか、大輔は慣れているのか。男として少しかっこよく見えた。

 

こうして波乱のダブルデートが始まる。

まずは軽い乗り物から。というのがデートの定番らしい。提案したのは彩花だった。ギャルの定番なのか、女の子の定番なのかは分からないが、助かった。そう颯太は思った。この日は朝から胸を打たれっぱなしで、刺激が強いと夕方まで持つ気がしなかったからだ。

澪だけは彩花の提案に決まったのか不満だったのか、はたまた女の子として先手を取られたのが悔しいのか、待ち時間もずっとスマホでデートの定番について調べていた。

最初に乗ったのはコーヒーカップだった。

軽い乗り物、という彩花の提案に従ったはずだが、澪と彩花がそれぞれハンドルを本気で回し始めたので、あっという間にコーヒーカップは最大速度になった。

「速い速い!」と澪が笑い、「もっと回して!」と彩花が大輔に言う。大輔が困りながら従い、颯太はただ振り回されていた。

乗り終わって降りた時、颯太と大輔は二人して少しふらついた。

「これ軽い乗り物じゃないですよね。」

颯太がぼやくと、澪と彩花は顔を見合わせて笑った。そのタイミングが揃っていて、颯太は少し驚いた。仲悪そうで、実は息が合っている。そういう二人なのかもしれない。

 

次はメリーゴーランドに乗った。

四人で横並びに馬に乗る。澪がいちばん背の高い馬を選んで、颯太はその隣。大輔と彩花がその奥に並んだ。

ゆっくりと回りながら、颯太は澪の横顔を見た。澪は前を向いて、少し風に髪を揺らしながら、どこか遠くを見ていた。幸せそうな顔だった。何かを考えているというより、ただそこにいることを楽しんでいるような。

「楽しい?」

颯太が聞くと、澪は颯太の方を向いて「うん!」と答えた。そのひとことに何の迷いもなかった。

颯太も前を向いた。じんわりと嬉しかった。

メリーゴーランドを降りると、澪は日記を取り出して何かを書いた。颯太は覗かなかったが、今日ここに来たことが書かれているのだろう。それは颯太にとって、写真より確かな証拠のような気がした。

ダブルデートの日、颯太たちは遊園地で待ち合わせをした。最初は四人で楽しくアトラクションに乗ったり、お土産を見たりしていた。しかし颯太と澪、大輔と彩花の間に、どこかぎこちない空気も流れていた。

特に、澪と彩花は、お互いに対抗心を燃やしているようだった。

 

お土産屋を覗いた時も、澪が「これ可愛い」と言えば彩花が「あたしこっちの方が好き」と言い、彩花が「このぬいぐるみは絶対買い」と言えば澪が「こっちの方が颯太くんに似てる」と言う。張り合っているというより、お互いの感覚を試し合っているような感じだった。

大輔は途中で颯太に耳打ちした。

「なんか楽しそうだな、あの二人。」

颯太も同意した。対抗心があっても、根っこのところで二人は似ているのかもしれない。

二人で乗るアトラクションでは、颯太と澪、大輔と彩花のペアに分かれた。

観覧車の乗り場に向かいながら、澪は颯太の隣を歩いた。昨夜の軍事会議でしっかり「観覧車は絶対乗る」と決めていたアトラクションだ。澪の足取りが少し弾んでいた。


ゴンドラに乗り込んで扉が閉まると、二人だけになった。遊園地の騒音が少し遠くなって、静かになった。ゴンドラがゆっくりと上がり始める。

颯太は正面の窓から外を見た。遊園地の全体が見渡せる。ジェットコースターが走っているのが見える。大輔と彩花のゴンドラは少し前にいるはずだが、どれか分からなかった。

「颯太くん。」

澪が颯太の方を向いて言った。

「ねぇ、颯太くん。重大発表があるの。」

颯太の心は高鳴った。

重大発表。その言葉は颯太の頭の中でいくつかの可能性を作り出した。どれも都合のいいものばかりで、颯太は自分の想像力を少し恥ずかしく思った。

「何?」

なるべく自然な声で聞いた。たぶん自然じゃなかった。

しかし、澪は少し笑ってから言った。

「それは後で言う。」

「え〜」

「もったいぶりたい気分なの。」

颯太は思わず窓の外を向いた。ゴンドラは頂上に差し掛かっていた。遊園地が全部見えた。昼過ぎの太陽が街全体を輝かせる。きれいだった。

きれいだ、と思う余裕が本当はなかった。

重大発表。後で言う。その言葉が颯太の中でぐるぐると回り続けた。

でも街から反射するスポットライトを浴びた澪の横顔がその不安を消してくれる。

きれいだ。今度はそう思える。

颯太はその横顔を、少しだけ長く見た。

重大発表の中身よりも、この一瞬の方が、颯太にはずっと記憶に残りそうだった。

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