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ヤンキー君とちび鬼くん

作者: 昼月キオリ
掲載日:2026/02/10




〜登場人物〜


晴樹はるき(17)

喧嘩っ早く口も悪いが、弱いものいじめが大嫌い。

家にはほとんど帰らず、夜は外をふらついている。


そら(3)

人間の世界に憧れる青鬼の子ども。

臆病だが、感情が高ぶると無意識に力が溢れてしまう。






二月三日。節分。

冬の空気がやけに冷たい夜だった。


喧嘩を売ってきた相手を、一発で地面に沈める。


「ちっ、もう終わりかよ、つまんねーな」


倒れた男に目もくれず、晴樹は舌打ちする。


その時だ。


「鬼はーそとー! 福はーうちー!」


パラパラパラ!!


豆が宙を舞い、乾いた音を立てて地面に落ちる。


次の瞬間、小さな影が家の中から飛び出してきた。

転びそうになりながら、必死に走ってきて俺と目が合う。


「「あ」」


一瞬、時間が止まった。


仮装した子どもか?

いや、普通鬼役って大人がやるよな。


薄いブルーの肌。

茶色のアフロ。

額には小さなツノが二本。


かぼちゃパンツは豹柄で、上は何も着ていない。

この寒さで、ほとんど裸同然だ。

さすがに、これは酷過ぎるだろ。


ちび鬼は、俯いたまま、とぼとぼと歩き出した。


「おい」


しまった。

思わず声をかけちまった。


ちび鬼はびくっと肩を震わせ、恐る恐る振り返る。


「追い出されちまったのか?」


「うん・・・僕、鬼だから。豆をぶつけられるんだ。

温かい家が羨ましくて・・・つい、家の中に入ろうとしちゃったんだ。」


「鬼・・・?」


「うん。だから、僕はあの家の子じゃないよ」


待て待て待て。

いくらなんでも非現実的過ぎるだろ。

鬼っておい・・・。


「お兄ちゃんは?どうしてここにいるの?」


「俺?俺は・・・」


答えに詰まったところで、人目が気になった。


「とりあえず、こっち来い」


近くの公園。

滑り台の陰に身を潜める。


冬のせいで、あたりはもう暗い。


「ありがとう」


小さな声で言われて、俺は後頭部をガシガシ掻いた。


「まぁ、これからのことは明日考えるか」


「ねぇ、もしかしてお兄ちゃんも嫌われてるの?」


唐突な質問だった。


「何でそう思う?」


「んー、公園来る時にも絡まれたし、こんな時間に外にいるってことはそうなのかなって。」

 

「まあな。家は落ち着かないからあんまり帰ってない。街に出てもしょっちゅう殴ったり殴られたりしてるよ。」


「どうして殴るの?」


「殴られるから殴り返す。

それを繰り返してるうちに、もう訳わかんなくなってんの」


「そっか。お兄ちゃんは、戦ってるんだね」


変な言い方するやつだな。


「お前は?なんでやり返さない?」


「だって、僕嫌われたくないもん」


「そんな甘っちょろいこと言ってるからやられるんだよ。やり返せよ。」


しばらく黙ったあと、青鬼がぽつりと言った。


「じゃあ、お兄ちゃん、友達になってくれる?」


「え、友達?」


「うん。そしたら僕強くなれるかもしれない」


仕方ないな。


「俺は晴樹だ。お前、名前は?」


「鬼たちには、名前なんてないよ」


「なんだそれ。

さすがにずっと“お前”とか"おい"って呼ぶわけにもいかないしな。俺が付けてやるよ。」


「ほんと!?やったー!」


「空」


「そら?」


「青空みたいな綺麗な色してるから」


「綺麗じゃないよ。

みんな、気持ち悪いって言うもん」


俺は空の頬を、むにっと引っ張った。


「他の奴の意見なんかどーだっていいんだよ。

俺が言ってんだから、信じりゃいいんだよ。」


目を三角にしながら晴樹が言い放った。


「ふ、ふあい・・・」



その夜、俺は空を家に連れて帰った。

親は仕事と旅行でほとんど不在。好都合だ。


布団を半分こして、空は丸くなっている。


「なぁ、空」


「なに?」


「豆、嫌いか?」


「うん。だって、痛いから」


「そっか」


明日、甘いもんでも買ってやるか。

鬼でも食えるやつ・・・って、何だ?


天井を見つめながら、ぼんやり考える。

喧嘩ばっかの、どうしようもない俺の人生。

いつの間にか、空は隣ですやすや眠っていた。


それが、まさかだな。


数秒、その寝顔を見てから、俺も目を閉じる。

不思議と、その夜は嫌な夢を見なかった。






後日。


晴樹が公園で喧嘩し、完全にやられた時だった。


「お兄ちゃんをいじめるなー!!」


その叫びと同時に、空が前へ出る。


次の瞬間、

雷が鳴り、男たちの周囲に ドン! ドン! と落ちた。


「ひいい!!」

「何だこいつヤバい! 逃げるぞ!!」


晴樹「・・・ぽかん。

おま、おま・・・すげーな!!」


「えへへ、なんかよく分かんないけど勝ったみたい」


「みたい、じゃなくて圧勝だっつの。」


待て。

こいつ、実はとんでもなく強いんじゃねぇか?

敵に回したらヤバいな。


雷が消え、焦げたアスファルトの匂いだけが残る。


俺は地面に座り込んだまま、動けなかった。


「なぁ」


「なに?お兄ちゃん」


心配そうに、空が覗き込む。


「空は本当に何者だよ」


「鬼だよ?さっき言ったじゃん」


「いや、そうじゃなくてさ。何であの日はベソベソ泣いてたのにさっきは立ち向かったんだよ?」


「お兄ちゃんが殴られてたから」


「そんだけか・・・?」


「うん」


あっさり言うな。命懸けだっただろ。

雷の力なかったら殴られていたかもしれないってのに。


俺は立ち上がり、空の頭をガシガシ撫でた。


「ありがとな。」


空は、えへへと笑った。


青空はそんな二人を包み込むように、

ただそこに存在していた。


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