傍線しか残せなかった
※同じ出来事の“表側”を描いた短編があります。
『傍線だけが残った』
単体でも読めますが、あわせて読むと印象が少し変わるかもしれません。
若い女の子二人と脱出ルートに向かっていた。
この意味は明らかだった。
――若い二人を生かせる。
「ねぇ。君たちは何でこんな戦場に?」
「私は……家族の為です」
ケイトは俺の目を見てきっぱりと答えた。
それがいい。
「私は……少しでも役に立つ仕事がしたかったんです」
もう一人のミアは俯き加減で答えた。
――危ういな。
足を引っ張るかもしれない。まだ覚悟が決まっていない可能性がある。
しかし、何を優先するべきか……。
全員の脱出は無理だろう。だから俺が選ばれた。
数日後。
ミアが俺の軍服を破って懐に入れていた。
これは……どうすればいいだろうか。
応えられないことには変わりがない。
そして、将来の約束すらできない立場だ。
そのまま、気づかないふりを続けた。
――こんな女の子が死ぬ羽目になるのか?
俺なら何人も殺してきた。
ならば彼女たちは?
ただ、医療現場で働いていただけだ。
しかし、それが現実だ。
ケイトが、別行動しようと提案した。
いい作戦だった。
そして彼女の言葉は理にかなっている。
「ユアンさん。私はここから別行動を取ります。あなたの使命を思い出してください。確率は高いほうがいいでしょう」
異議をとなえる必要さえなかった。
ケイトは一人、ルートを外れていった。
ミアはずっと押し黙ったままだった。
休憩のために腰かけた地面の上で、弾倉を確認する。
――これだけか。
ミアが不安そうにこちらを見ているが、軽口で誤魔化した。
厳しい戦いだ。
そして……。
確実に追っ手が来ている。
もう一度、弾倉を数える。
最悪、自決用に取っておきたかったが……。
最後くらい、いいかもしれない。
この一弾が未来を繋ぐならば。
「今から、俺は引き返して敵を引きつける。これは命令だ、振り返らずに真っ直ぐに走れ」
俺は黙って彼女の懐から手紙を抜き出した。
そして、自分の胸元からペンを取り出す。
一回だけインクがポタリと落ちた。
そして、傍線だけ書かれた。
そのまま、走っていく彼女の背中を横目に銃を持ち直す。
布を噛み締めて、呼吸音を抑える。
――よし。いくか。
右足が言うことをきかない。
それでも前に出る。
立て続けになる銃音。
木々が弾け、土が跳ねる。
だが、もう追う足音は分散している。
息が漏れたのか、血が溢れたのかも判断がつかない。
しかし、できる限り移動しよう。
それが役目だ。
ふと、暗闇の中。
彼女たちが生きて笑っている映像が流れた。
「ふっ!上等だ。最高の終わり方だよな、俺!」
いつもよりも身体が軽い。
後ろから回り込み、引き金を引く。
相手が構えていた銃を奪い取った。
直後に、真横から銃声が鳴る。
気づかれた。
直後に身体をころがす。
撃つ。
手応えがあった。
次は。
――左!
そちらに銃口を向ける。
木々の隙間から、撃つ。
別方向から、三発。
弾倉を素早く変える。
――まだ終われない。
そして、残りの弾数は……。
隙をつかれ、後ろを取られた。
背後から発砲音。
撃ち込まれ、迎撃する。
音が少しずつ消え、辺りは静かになっていった。
何発撃ち込まれたかわからない。
しかし、いつまで持つか。
――行ったな。
そう確信したら、地面が揺れた。
最後の力を振り絞って、地面に爪を立てる。
思ったよりも硬いそれは、すぐに皮膚を破るけど――。
何かを残したかった。しかし、書くことが多すぎる。
「ああ……。最期の言葉って思いつかないな」
俺は、星空を眺めて目を閉じた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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