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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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なろうチャレンジ企画:戦記

傍線しか残せなかった

作者: しぃ太郎
掲載日:2026/01/25

※同じ出来事の“表側”を描いた短編があります。

『傍線だけが残った』

単体でも読めますが、あわせて読むと印象が少し変わるかもしれません。

 


 若い女の子二人と脱出ルートに向かっていた。

 この意味は明らかだった。


 ――若い二人を生かせる。


「ねぇ。君たちは何でこんな戦場に?」

「私は……家族の為です」


 ケイトは俺の目を見てきっぱりと答えた。

 それがいい。


「私は……少しでも役に立つ仕事がしたかったんです」

 もう一人のミアは俯き加減で答えた。


 ――危ういな。


 足を引っ張るかもしれない。まだ覚悟が決まっていない可能性がある。


 しかし、何を優先するべきか……。

 全員の脱出は無理だろう。だから俺が選ばれた。



  数日後。



 ミアが俺の軍服を破って懐に入れていた。

 これは……どうすればいいだろうか。

 応えられないことには変わりがない。

 そして、将来の約束すらできない立場だ。


 そのまま、気づかないふりを続けた。


 ――こんな女の子が死ぬ羽目になるのか?


 俺なら何人も殺してきた。

 ならば彼女たちは?

 ただ、医療現場で働いていただけだ。

 しかし、それが現実だ。


 ケイトが、別行動しようと提案した。

 いい作戦だった。

 そして彼女の言葉は理にかなっている。


「ユアンさん。私はここから別行動を取ります。あなたの使命を思い出してください。確率は高いほうがいいでしょう」


 異議をとなえる必要さえなかった。


 ケイトは一人、ルートを外れていった。

 ミアはずっと押し黙ったままだった。


 休憩のために腰かけた地面の上で、弾倉を確認する。


 ――これだけか。


 ミアが不安そうにこちらを見ているが、軽口で誤魔化した。

 厳しい戦いだ。


 そして……。

 確実に追っ手が来ている。


 もう一度、弾倉を数える。

 最悪、自決用に取っておきたかったが……。


 最後くらい、いいかもしれない。

 この一弾が未来を繋ぐならば。


「今から、俺は引き返して敵を引きつける。これは命令だ、振り返らずに真っ直ぐに走れ」


 俺は黙って彼女の懐から手紙を抜き出した。

 そして、自分の胸元からペンを取り出す。


 一回だけインクがポタリと落ちた。

 そして、傍線だけ書かれた。


 そのまま、走っていく彼女の背中を横目に銃を持ち直す。


 布を噛み締めて、呼吸音を抑える。

 ――よし。いくか。


 右足が言うことをきかない。

 それでも前に出る。


 立て続けになる銃音。


 木々が弾け、土が跳ねる。

 だが、もう追う足音は分散している。


 息が漏れたのか、血が溢れたのかも判断がつかない。


 しかし、できる限り移動しよう。

 それが役目だ。


 ふと、暗闇の中。

 彼女たちが生きて笑っている映像が流れた。


「ふっ!上等だ。最高の終わり方だよな、俺!」


 いつもよりも身体が軽い。

 後ろから回り込み、引き金を引く。


 相手が構えていた銃を奪い取った。

 直後に、真横から銃声が鳴る。


 気づかれた。

 直後に身体をころがす。


 撃つ。

 手応えがあった。


 次は。

 ――左!


 そちらに銃口を向ける。

 木々の隙間から、撃つ。


 別方向から、三発。


 弾倉を素早く変える。


 ――まだ終われない。


 そして、残りの弾数は……。

 隙をつかれ、後ろを取られた。


 背後から発砲音。

 撃ち込まれ、迎撃する。


 音が少しずつ消え、辺りは静かになっていった。


 何発撃ち込まれたかわからない。

 しかし、いつまで持つか。



 ――行ったな。


 そう確信したら、地面が揺れた。


 最後の力を振り絞って、地面に爪を立てる。

 思ったよりも硬いそれは、すぐに皮膚を破るけど――。


 何かを残したかった。しかし、書くことが多すぎる。


「ああ……。最期の言葉って思いつかないな」


 俺は、星空を眺めて目を閉じた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
素晴らしい物語でした!登場人物も素晴らしく、戦争の残酷さも描かれています。私たち皆から何かを奪い去り、苦しみを味わわなければならなかった登場人物たちに、心から同情しました。
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