巡る思念の叫び声
「エイダ様」
「……。」
「聞いておられますか。エイダ様。」
「…え!!え、ええ、はい。先日正式に王太子となられた第一王子が、我が領地へ来られると。」
「良かった。思ったより聞いておりますね。
我が領地はこの通り年中魔物の相手でいっぱいでありますので…。旦那様が戻られるまでおそらく半月。この時期のグリフォンは厄介ですからね。王子殿下がこられる前に戻ることができるか、というところでございます。」
「なので、お姉様と私で応対することになりそうだということね。」
エイダは渋い顔をした。
王子への対応は、他界した母に代わって長年家を切り盛りした姉に任せれば、問題ないと思っている。
(なんでまた、急にこんなことになるんだか…)
エイダの住むマリトルト領は、王都からかなり北の方にある。そのさらに奥には「死の森」と呼ばれるオウレア山脈があり魔物が蔓延る禁足地となっている。
日常的に魔物を相手にしているこの領地の住人は、半数以上が戦闘経験者だった。
そんなところに、後継者として選ばれたばかりの第一王子が急にくるのは穏やかではないのだ。
この国は、何年も前から隣国と衝突を何度も起こし、現在も緊張状態が続いている。
16歳であるエイダも、本当は15歳から王都の高等学校に進学する予定だった。戦争による極度の緊張状態から、多くの貴族が進学を辞退することになったのだ。
「半年間も、魔物対策の視察ね。どう思う?お姉様。」
「どう思うって、エイダ…王子様にどうもこうもないわ。国王の勅命だもの。何もないよう、町中に早馬で知らせなくては…、今はどこも血の気が多くて、外の人間に冷たいものね。」
「跡継ぎなのに、半年も王都を離れて大丈夫なのかしら。…とてつもない、軟弱者がきたらどうする?」
「軟弱者ですって?…っふ、もう、エイダったら。第一王子は素晴らしい火魔法と光魔法の使い手と聞いているわ。そんなこと言って、護衛騎士に剣を向けられても、おねえさまは庇えないわよ。」
「そこは助けてよ!素晴らしい火の使い手や光魔法の術師なんて、ここにはいくらでもいるじゃない。家の中が堅苦しくなるなら、私もお父様についていけば良かったわ。」
「そんなのお父様が許すはずないわよ。今回はグリフォンだもの。エイダったら、何がなんでも学園に放り込めば良かったわね。」
「もう学園に未練はないわ。たまーにお茶会や近くの社交だけで、十分じゃない。お姉様のお手伝いもして、魔物の相手。充実しているわ。」
「魔物の相手はいらないわね。」
「お姉様はわかってないわね、お兄様じゃなくて私が残っている理由が!」
「お兄様はグリフォンを倒しながら、婚約者であるコレットさまにお会いになるのよ。お留守番さん。」
「もう、お姉様!」
笑いながら、姉が部屋を去っていく。
エイダは、優しい姉と強く逞しい父と兄の中でのびのびと育った。そこに、王都という都会から来る偉い青年…どうも自分には合わないだろうと頭を痛くした。
しかも、半年も滞在するというのだ。極力顔をあわせないよう、屋敷のルートを練るしかない、とエイダはまた渋い顔をして唸った。




