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4話よ!

 授業は後半に迫ってきた。


 サラサラと音を鳴らしながら黒板に書かれていく数式を目で追いながら、彩葉――いや、アタシは着いていくので精一杯。


「あー、正直、全く分からないわ……」


 前回の授業のページを何度もめくっては照らし合わせ、必死にノートを取っていく。


そのとき――。


 ガラリ。

 教室のドアが勢いよく開くと見覚えのない男子が立っていた。


 肩で息をしながら、「す、すいません……!」と頭を下げる。


「その、森が…道が…校舎が思ったより広くて……」と必死に説明している。


 先生が目を丸くしていると、生徒のひとりが恐る恐る口を開いた。


「えっと…彼は、転校生です…」


「ああ…なるほど……」

 先生はようやく納得したように頷き、彼の方に視線を向ける。


「天野くん、だったかな? 転校初日で大変なのはわかるが、授業に遅刻はいけないぞ。 次から気をつけるように」


「……とりあえず、席につきなさい」


「……はい」


 しょげた声で返事をした彼は、しゅんと肩を落としながら席へ向かう。


......はぁ!? 転校初日で授業に遅刻!? あまり仲良く出来そうにないわね……


 ノートに目を落として黒板を板書しようとすると、次の瞬間、思わず目を見開く。


――よりによって。


 彼が腰を下ろしたのは、アタシのすぐ隣の席だった。


……いや、となりかい!? 最悪……これじゃあ、毎日顔を合わせることになるじゃない…。


 机をちょっとだけずらしたい衝動を抑えながら、思わずため息がこぼれる。


 授業が再開し、先生の声とチョークの音がまた響き始める。


 隣をチラッとみてみると――彼はノートを開いてはいるけど、机の上には肝心の教科書がなかった。


……は? 教科書すら持ってないの? どこまで準備できてないの? ほんっと、信じられない……


 そう思って睨みつけるように視線を送ると、彼は困ったようにノートは必死で書き込んでいた。……どうやら“やる気がない”んじゃなくて、本当にどうしようもないらしい。


 そのとき、先生が教卓から声をかける。

「じゃあ、教科書の三十二ページを開いて」


「――っ」

 ノートの上で手が止まり、視線が右往左往している。


……ちょっと……完全にオロオロしてるじゃない。 これ以上見てるとこっちが恥ずかしくなるわよ……


 ため息をひとつ。アタシは机をぐいっと引き寄せて、教科書を半分差し出した。


「……ほら。見せてあげるわよ」


「あ、ありがとう……」


 彼は驚いたように瞬きをして、それから申し訳なさそうに笑った。

 感謝と戸惑いが入り混じった声。


「気にしなくていいわ」

 短くそう返し、前を向く。


……悪いやつではなさそうね。


 ペンを握り直し、黒板に意識を向けて必死にチョークの音を追いかけた。


◇◇◇


 チャイムが鳴り響き、授業が終わる。


 アタシはすぐに机を引き離し、椅子から立ち上がった。


「次は科学よ。 教科書がないなら、また見せてあげるわ。……でも、あるならちゃんと準備しておきなさい」


言い捨てるようにそう告げ、振り返りもせず教室を後にする。


◇◇◇


 転校初日って、もっとこう……注目とか、ちやほやされるもんだと思ってたんだけどな。


 現実は、迷子になって授業に遅刻。先生に注意されて……散々だ。


 それでも、唯一の救いは――隣の席の四季さんかな。


……いい人、なのかもしれない。


 ちょっと不思議な雰囲気もあるけど、教科書を見せてくれたし……。


 今日だけでかなり助かったのは間違いない。


「……次の授業は化学って言ってたっけ?」


……また、教科書見せてもらうしかないな


◇◇◇


 教室に戻ってきた四季 彩葉は、穏やかな表情でも、明るい表情でも、自信にあふれた表情でもなかった。


 そこに浮かんでいたのは――困ったような表情。そして、瞳は澄んだアイスブルーに変わっていた。


 ゆっくりと自分の席に腰を下ろして、ため息を吐く。


……せめて、放課後になってから変わってくれたらよかったのに。


 鞄からスマホを取り出し、グループチャットを開く。



【四季 春香/夏海/秋音/冬乃(1)】

彩葉:14:06

 私はちゃんと入れたから違う。きっと秋音の仕業。それに人の嫌がることをしちゃダメだと私は思う、、



「……なんとか、誤魔化せそう。」


 小さくそう呟いてスマホをしまい、カバンからゲーム機を取り出す。


 小さな画面に効果音とポチポチ音を鳴らしながら没頭していく。


 チャイムが鳴っても、先生が教室に入ってくるまではプレイをやめなかった。


 だが、扉が開く音が響いた瞬間――冬乃はびくりと肩を揺らし、慌ててゲーム機を机の下に滑り込ませる。


 そして、慌てて教科書とノートを取り出し、机の上に並べた。


 授業が始まり、私はノートを広げ、授業そっちのけでペンを走らせる。


 線を重ね、影をつけ……気づけばもう十分以上経っていた。


……あと少しで完成。


 集中していると、不意に視線を感じた。


……ん? なんか……隣の人、ちょくちょくこっち見てない……?え……だれ、この人……?てか、なんで隣に人がいるの…?


 チラリと横目で確かめると、ちょうど目が合ってしまった。私は、気まずそうに「へへ……」と小さく笑って、お辞儀すると向こうもお辞儀してきた。


 私は急いで視線を下に落とす。


え、え、え!? なにこれ!? なにこれ!?昨日までここ、空席だったよね……? なのに……なんで……てか……“へへ”って……なにそれ……! めっちゃ恥ずかしい……!


 顔が熱くなるのを誤魔化すように、手を壁にして顔を隠す。

 

 そのとき――隣から、おずおずとした声がかかった。


「あのー……教科書がなくて……よかったら、見せてもらえない?」


「――っ!」


 思わず肩が跳ねる。急に声をかけられて、心臓が一気に跳ね上がった。


「あ、あぁ……あーね、ねー……教科書、ね……」


ど、どうしようどうしよう……


「いいよ、いいよ、あげるあげる……!」


 勢いでそう口走ると、私は机を寄せる代わりに、手元の教科書を彼に押しやってしまった。


 私は急いで視線を下に落とす。


や、やっちゃった……!普通こういうときって、席をつけて一緒に見るんでしょ……?なんで教科書ごと渡してるのよ、私……!


 後悔に胸がぎゅっと縮まる。


「え……でも、四季さんは?」

 彼が戸惑った声で問いかけてきた。


「――っ!」

 慌てて顔を上げ、首をぶんぶん横に振る。


「い、いいの、いいの! わ、わたし、ほら……あれ……もう全部頭に入ってるから……!」


あぁ、あぁ……なんでこんな苦しい言い訳を……!


「……あ、そ、そうなんだ……」


「あ、じゃあ……ちょっと分からないところがあるから。よかったら、教えてくれない?」


 そう言って、彼が机を少し動かそうとする。


「――っ!」

冬乃の心臓が跳ね上がった。


「ひゃ、ひゃいっ! も、もちろん……いいですよっ!」


 声が裏返るのも構わず、慌てて返事をする。


な、なんでこんなことに……

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