31話になるわ
――わいわい、がやがや。どたどた、ばたばた。
午後から一般の人も入れるようになって、更に人が増えてきたわね。
……こんなことなら。
もっと早く、お姉ちゃんを誘って一緒に回ればよかったわ。
ママのほうは、さっさとどこかへ行かせたのに、パパだけはなぜかずっと後ろをついてきてる。
しかも――ビデオカメラで、私を撮影しながら。
長時間、娘の後ろ姿だけ撮って……いったい、何が楽しいんだろう。
……悪いけど。私は、パパとじゃなくて。
お姉ちゃんと回りたいの。
「すみません、警備員さん。後ろにいる大柄な男性が、ずっとついてきてて……しかも、カメラで撮影してるんです」
「なに!? ちょっと! そこのあなた!」 「――いや、ちょっ……」
「あ! 抵抗するぞ!」
さて……私のお姉ちゃんはどこにいるかな?
誰が出てるか分かれば、だいたいの居場所も見当がつくんだけど。
春ねぇなら――
教室の展示物とか、真剣に見てそうね。
真面目で几帳面だから、端から順に丁寧に見て回ってるに違いないわ。
私は展示物を見るより、春ねぇを見ていたいわ。
夏ねぇだったら、
第2グラウンドね。部活体験とか、スポーツ系の出し物に飛び込んでそう。
「あたしもやる!」って張り切って、頑張ってる姿が目に浮かぶ。
私と生涯のペアを組んで欲しいわ。
秋ねぇは……うーん。
賑やかなところにも、静かなところにも突然現れるから、ちょっと予測不能ね。
だいぶ盛り上がってきてるし、逆に静かなところにいそうね。
その、見てるけど視てない視線で、私を釘付けにして。
冬ねぇだとー。
間違いなく、屋台。食べ歩きしながら、ちょっとちょこっと端っこ歩いてるはず。
ホントは教室の喫茶店に入りたいけど、1人は恥ずかしいからって。
……うん。
なんとなく、冬ねぇが私を呼んでる気がする。
……はぁ。食べ歩きしてる私のお姉ちゃん、世界一かわいいよ。
待ってて。
すぐに、出会えるから!!
◇◇◇
……は? はぁ!? はぁあああ!!?
な、なな……ななななな、なんで……お姉ちゃんの、ととととととなりに、お、お、おとこぉぉぉぉ!!!???
……落ち着きなさい。落ち着くのよ、私。
なんてことない。なんてことないわ。
迷子になって話しかけられただけとか、たまたまキャッチセールに捕まったとか、その程度よ、きっと。
……まさか。その男と一緒に回ってる、なんて言わないわよね? お姉ちゃん?
なに、その……!?
―――――エンジェルスマイルは!!!!!!!!!!?????
14年間一緒にいたけど、初めて見る表情なんだけど……!?
まだ、あったというの……!?
私の知らない顔が……!?
なんて……なんて……!!
―――――好き!!!!!!
お姉ちゃん!!!!!!
大好き!!!!!!!!
あいs「何か騒がしいけど……あ! 映姫ちゃん!」
私を見つけた瞬間、ぱっと表情を変えて駆け寄ってくる冬ねぇ。
……最高ね。私の冬ねぇは。
頭を撫でて、ほっぺをむにむにして、吸いたい。頬ずりもしたいし、ぎゅーってハグもしたい。
キスは……さすがに早いかしら?
チークなら、セーフよね?
とりあえず、どさくさに紛れて肩触っちゃおっと。
「走ると危ないよ、(私の)お姉ちゃん」 「大丈夫だよ、このくらい……」
「ホントに? この前、派手に転けたって聞いたけど?」
「あれは私じゃなくて、春香ちゃんだから」 「体育祭の話だよ」
「あ、そっち……? ……って、やめてよ。あれはホントに違うの……。」
……思い出して、恥ずかしがる冬ねぇ。
……いい。
額縁に入れて飾りたい。
秘蔵コレクションに、加えたいわ。
「四季さん、急に走ると危ないよ」
――っ!!
シャーーッ!!
「……天野くんまで。大丈夫だって、このぐらい」
「ならいいけど……隣の人は?」
私はとっさに、お姉ちゃんの後ろに身を隠した。
コイツ、ワタシノテキ。
テキ、ユルサナイ。
オネエチャン、ワタシノモノ。
「わわ……ちょっと、ブレザーの中に入らないでよ、映姫ちゃん」
「ふふ……あははは……くすぐったいよー」
スーーーーーッ
ハーーーッ
スーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ
さて、
「失礼しました。文化祭の楽しさに、浮かれていただけです。」
乱れた髪と服を丁寧に整えて、少しだけ微笑む。
「初めまして。四季彩葉の妹、映姫です。」 「「…………」」
あまりの対応の違いに、天野さんとお姉ちゃんは揃って目を丸くする。
無音カメラで撮っておきましょう。
「あーっと……ご丁寧にありがとうございます。天野湊です」
――ああ、この人がそうだったのね。
お姉ちゃんの話題の、体感八割を占めている人。
「私の方が年下ですから、敬語は使わなくて大丈夫ですよ」
「あ、そう? 分かったよ」
ここは癪だけどこの人のことも、もう少し知っておきたいし。
それに、お姉ちゃんの学校での様子も聞いてみたいわね。
「立ち話もなんですし、三人でお茶でも飲みながらお話ししませんか?」
「僕はいいけど……」
「私もいいけど、あまり長い時間はちょっと……あっ」
「つーかまえた。私のお姫様」
……げっ。
生まれてから何万回と味わってきた、この抱擁。
「お母さん? どうしてここに?」
「どうしてって、娘たちのいる場所なんて、だいたい分かるわよ~」
「やっほー、彩葉ちゃーん。天野くんもお久しぶり~」
「お、お久しぶりです」
「や、やっほー……」
「さ、映姫ちゃんは私と一緒に来て~」 「裁縫部の作った服を着られるらしいの! 一緒の服着て回りましょ~!」
……ママとのペアルックとか、コスプレなんて絶対イヤ!
たーすけてーーーー。
「うふふ、楽しみね~」
「あら? あなた、ここにいたのね! よかったわ! ついでについてきて!」
「――え? ちょっ……」
「……行っちゃった。」
「まあ……仲のいい家族って感じがするね」 「「…………」」
「と、とりあえず、少し休んだあと模擬店でも回ろっか」
「う、うん! そうだね! そうしよう! 喉がカラカラだよ!」
「裁縫部には近寄らないようにしよう……。」




