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3話なのかな〜?

 駆け出した四季 彩葉を追って、思わず足を踏み出す。

 まさか、転校初日から廊下を全力疾走する羽目になるなんて、想像もしていなかった。


 曲がり角に差しかかり、息を弾ませながら視線をやると――。

 廊下の突き当たり、壁の端からひょい、と小さな顔が覗いた。


 薄茶色の瞳と視線がぶつかる。

 次の瞬間、彼女はいたずらっ子のように口角を上げて、にこっと笑った。


 「――っ!」


 思わず言葉を失った隙に、彼女はするりと角の向こうへ消える。


「ちょ、ちょっと待てってば!」


 焦って駆け寄った時には、もう姿はなかった。


 「四季さん!」

 思わず声を張り上げる。


 どこに消えたのかと周囲を見回した瞬間――、


 「彩葉だよー!」


 軽やかな笑い声が、廊下のどこかから響いてきた。

 どの方向かも分からず、ただ反射的に走り出す。


「……っ、からかってるのか……?」


 息を切らしながら角を曲がると、向こうの廊下を鼻歌を歌いながらスキップして横断している姿が見えた。


 制服の裾をふわりと揺らして、こちらを振り返りもせず、また、向こうへと消えていく。


 ――遊ばれている。

 そんな確信だけが胸に残った。


◇◇◇


 ようやく辿り着いた中庭で、僕は肩で大きく息をしていた。


 「……やっと、追いついた……」


 目の前で立ち止まった彼女が、ぱちくりと瞬きをして、驚いたように声を上げる。


 「え? ついてきてたの〜?」


 息を切らしながら、思わず言い返した。

 「つ、ついて来てって言ったのは……そっちだろ……!」


 「そうだっけ? あははっ」

 悪びれた様子もなく、楽しげに笑う。


 次の瞬間、彼女は中庭の向こうを指差した。


 「ねえ、あそこから森に行けるんだよ。私のお気に入り!」

 きらきらと瞳を輝かせながら、弾む声で続ける。


 「さあ、行こう!」


 「は? ちょっ――」


 制止する間もなく、彼女はまた駆け出していた。

 僕はただ立ち尽くし、森の入口に掲げられた注意看板に視線をやる。

 “立入禁止”とまでは書かれていないが、あまり歓迎されている場所でもなさそうだ。


 「……入っていいのかよ……」


 思わず呟く。

 けれど、今さら教室への戻り方も分からない。


「行くしか……ないか」


 森に足を踏み入れた瞬間、ひやりとした空気が頬を撫でた。


 中庭とは打って変わって静かで、木々の間を縫う風の音だけが耳に残る。


◇◇◇


 「……やっちまったかな」


 胸の奥で後悔の声が湧き上がる。


 よくよく考えれば、追いかける必要なんてなかったんじゃないか。

 ここで待っていれば、そのうち彼女は戻ってきただろうし。

 教室だって、誰かに聞けば辿り着けたはずだ。


 「転校初日から、何やってんだ僕は……」


 小さく頭を抱える。


 けれど、一度足を踏み入れてしまった以上、もう引き返すこともできない。

 木々の奥へ駆けていった背中を思い浮かべて、ため息をついた。


 落ち葉を踏む音を頼りに進むと、やがて小道がふたつに分かれているのに気づく。


 右と左。どちらも同じように鬱蒼としていて、目印らしいものはない。


 「……こんなとこで二択って……」


   しばらく立ち止まり、耳を澄ませる。

 けれど、人の足音も声も聞こえない。

 迷った末に、僕は右の道を選んだ。


◇◇◇


 森の分かれ道。

 さっきほどまで誰もいなかった左の小径から、バサっ、と乾いた落ち葉を蹴る音が響く。


 姿を現したのは、息を切らせながらも軽快に駆け降りてくる彩葉――その瞳は、太陽のようなオレンジに変わっていた。

 

 ザッ、ザッ、と落ち葉を軽快に走る。


 吐き捨てるように文句を言いながらも、足取りは迷いがない。

 しなやかな脚が地面を蹴るたび、乾いた音がリズムを刻む。


 「絶対に秋音でしょ! あの、バカ!」

 「なんでお昼がもう終わるってのに、こんな所でフラフラしてるのよ……!」


 彩葉は片手でスマホを取り出し、画面をのぞき込む。

 その瞬間――校舎から、けたたましく予鈴が鳴り響いた。


「あぁ、もう……ほら! 鳴ったじゃない!」


 吐き捨てるように言って、地面を強く蹴った。

 森を抜け、中庭を駆け抜け、一直線に教室へと戻っていく。


◇◇◇


 「セーフ!」


 彩葉は勢いそのままに教室へ飛び込む。

 黒板の前にいた先生が眉をひそめて、腕時計をちらりと見た。


 「おい四季、ギリギリだぞー」


 「あはは……すみませーん!」

 軽い調子で頭を下げ、そのまま自分の席に腰を下ろす。


 机に肘をつきながら、心の中で毒づいた。


 ――もう……秋音のやつ。覚えてなさいよ……!

 次のお小遣いでアイスでも奢らせてやるんだから…………パフェの方がいいかしら?……


 小さくため息をつきつつも、胸の奥では別の感情が勝っていた。


 ――でもまあ、春香や冬乃じゃなくて良かったわ。

 アタシじゃなきゃ、絶対に間に合わなかったもの。


 自分で自分を褒めるように胸を張り、ふんと小さく鼻を鳴らした。


 チラリと先生の方を確認してから、彩葉はすっとスマホを取り出した。


 動作は無駄がなく、何度も繰り返した手つきだ。片手で画面を起こし、親指を滑らせる。


 チャットのアプリを開こうとした瞬間、画面の並びに眉をひそめる。背景はダークモードになっていて、いつものチャットアプリは違う場所に収まっている。


 ぎゅうぎゅうに詰め込まれたフォルダ、見覚えのないゲームのアプリ。まるで誰かが遊んだあとみたいに、ぐちゃぐちゃだった。


 「……また誰よ、触ったの」


 小さく毒づきながら、彩葉はため息交じりに画面を長押しして整理整頓する。


 通常モードに戻して、余計なアプリは一つのフォルダに入れるとしっかり整理整頓してよね!と名前に変える。チャットアプリをいつものところに置いて見栄え良く他のアプリも整理していく。


 「もう……変えるなら、ちゃんと綺麗にしてよね」

 口ではそう呟きつつも、綺麗に整理された画面を見つめ、頬の端がほんの少し緩む。


 いつものチャットアプリをタップして日付に目が入ると


 「げっ……アタシ、一昨日ぶりだったのね」


 画面をスクロールして前回の自分のところまで戻る。



【四季 春香/夏海/秋音/冬乃(1)】


   一昨日


彩葉:18:54

 今日は10km程度走るわ!自己記録更新目指すわよ!


彩葉:21:46

 猫ふんじゃったって、猫が踏んじゃったのかな?それとも猫のふんじゃったなのかな?それとも猫を踏んじゃったのかな?不思議だね!


   昨日


彩葉:7:00

 日差し眩しい……秋音なんでカーテン閉めてないの……

彩葉:7:01

 ログインボーナス受け取ってないんだけど、どうして?

彩葉:7:02

 ログインしてって言ったじゃん、、

彩葉:7:04

 昨日のイラスト、いいねが増えてた

彩葉:7:06

 授業始まる前にワンゲームできるかも

彩葉:7:08

 やっぱりやめとく

彩葉:7:09

 やっぱりやろうかな

彩葉:7:10

 今日家帰ったらイラスト描こうかな

彩葉:7:11

 ……でも眠い

彩葉:7:23

 通学中みんな何やってるの?


彩葉:13:51

 帰りに買い物行きたいのだけどもし、変わってたら変わりに行ってくれないかしら?


彩葉:21:03

 イラスト描こうかな?それともゲームしようかな?

彩葉:21:37

 なんで無敵使ったのに挑発したの、、、

彩葉:23:15

 このゲーム面白いからみんなもやってみて

彩葉:25:40

 やばい、、明日私じゃありませんように

彩葉:26:30

 おやすみ


   今日


彩葉:7:00

 なんで、、私なの、、

彩葉:7:01

 とても眠い、、

彩葉:7:13

 まあ、いいや。ごめん、、

彩葉:8:10

 冬乃ちゃん?どうしてお弁当が無くて、代わりにゲームが入ってるの?

彩葉:12:39

 校舎の裏ってさ、猫の通り道に似てるよね!しっぽでバランスとるやつ!非常口の人が裏の森に行ったから追いかけるね!



「……はぁ」

夏海は眉間を押さえ、深くため息をついた。


「やっぱり、裏の森に行ったのは秋音だったのね……てか、冬乃も何やってるのよ……」


 親指を素早く動かし、キーボードを叩く。



【四季 春香/夏海/秋音/冬乃(1)】


彩葉:13:14

 秋音!あんたちゃんと時間見なさい!もう少しで授業に遅刻するところだったわよ!

 それから冬乃!夜更かしばっかして!アタシが走るとき体が重いの、ほんっと嫌なんだから!次やったらあんたのゲーム叩き壊すわよ?



 「……よし」


 送信音が短く鳴って、吹き出しが画面に並ぶとスマホをパタンと閉じる。


 机の上にスマホを伏せ、背筋を伸ばす。

 まだ心の奥にイライラは残っているけれど、授業中に気を取られるのは性に合わない。

 黒板に視線を向け、ノートを開く。


 「……集中、集中」


 ペン先がカリカリと紙の上を走り、耳に届く先生の声が少しずつ頭に入ってくる。



 ――ちょうどその頃、森の奥では迷子になった天野 湊が、ひとり途方に暮れていた。

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