常にダンジョンはアップデートされている。
冒険者カードを通して改札口を抜けたあとは地下へと通じる階段を降りていく。
そこで、ふと気がついた。
「地下への階段の幅が以前よりも広がっている!?」
以前は、地下鉄に降りる程度の幅しかなかった階段が、今では倍くらいの幅になっている。
幅としてはバス2台分ほどの広さ。
高さは2メートルから3メートルに拡張されている。
「どうかしたのかしら? 佐藤さん」
「いえ、以前よりも階段の幅が拡張されているなと思いまして」
「そうなの?」
「はい」
ダンジョン地下1階への階段を降りる途中で足を止めて携帯電話で日本ダンジョン冒険者協会のホームページを検索する。
すると、日本中でダンジョンを利用する冒険者の数が10倍に跳ね上がった事もあり、神々のダンジョンがアップデートされたと書かれていた。
「なるほど……」
たしかに、氷河期世代は1000万人を余裕で超えるし、その内の1割がダンジョンを利用するとしても100万人。
ダンジョンは日本国内では利用不可な樺太ダンジョンを覗けば47か所。
一日、最低でも2万人は利用するのだから各階層を繋ぐ階段を改善するのは、当然と言えば当然と言える。
「どうやら、神々のダンジョンは俺が知らない内にアップデートされたみたいです」
「そうなのね」
「そういえば、菊池さんは、どうしてダンジョンに入ろうと思ったんですか?」
「日本政府から、ダンジョンに潜ったことのない氷河期世代に向けてダンジョンに入れるかどうかの選定があって、その結果、入れる人にはダンジョンに入った方がいいですよと働きかけの手紙が入っていたの」
「そうなんですか?」
「そうそう、これね」
俺に差し出してきた一通の封筒。
それは多古市役所のマークが入っており、冒険者カードが同封されているものだった。
俺の時は、住民票届け出してある役所に赴いて登録をしたというのに、いまは国が率先して冒険者カードを配布しているのか。
「なるほど。色々と国はしているんですね」
日本国政府が、冒険者を率先して増やしたいというのは手紙から見て取れた。
「自分はてっきり、菊池さんは冒険者には興味はないと思っていました」
「興味がなかったというよりも年齢的に、氷河期世代ではないと思っていたから」
「たしか氷河期世代は41歳から55歳まででしたっけ?」
「ええ。私はギリギリ41歳だったから良かったわ」
「え? それって……、涼音さんって……」
「16歳で産んだから、今は25歳ね。早く結婚して欲しいけど、良い人がいなくて困っているわ」
「そうなんですか……」
俺は菊池さんの母親の年齢は40代後半くらいだと思っていたが、どうやら違っていたようだ。
そして16歳で出産か。
まぁ、俺達みたいな氷河期世代には珍しいことではないな。
良くあったとは言わないが、俺と同年代の女子でも16歳で結婚している人とか普通にいたし。
調べものが終わったあと階段を降り切ると、「あっ!」と、言う声が横に立っていた菊池さんから聞こえてくる。
「スキルを覚えたみたい。えっと……、【鑑定I】【アイテムボックスI】【剣士I】を手に入れたみたい」
「良かったです。鑑定で、アイテムボックスや剣士を検索すると詳細が見れますよ」
「本当ね。それにしても、まるでゲームみたいね。これは面白いわね」
「それでは、1階層から10階層まで説明します」
そのあと10階層まで農作物は何が収穫できるかを収獲方法も交えながら説明していく。
「あら? この佐藤さんから借りた剣鉈だけど、色々と付与がついているのね」
そんなことを菊池さんは俺に話しかけてきた。