スキル【アイテムボックス】は、やはりチートスキルのようだ。
神々が運営するダンジョンのアップデートが入ってから2週間、日本中は劇的に代わった。
一番大きく変わったのは、物流関係。
氷河期世代の人口は1700万人から2000万人と言われており、日本人の6人に一人の割合でアイテムボックスが使えるようになったのだから当然と言えば当然と言える。
アイテムボックスに飲料関係などを入れれば持ち運びは簡単だし、通販関係、配達関係、引っ越し関係でも問答無用で100キロまでのモノを持ち運びできるのだ。
現場で重宝されるのは当然と言えば当然のことだった。
そして、次に需要が急激に伸びたのは日本刀と猟銃関係。
スキル【剣士I】というスキルを氷河期世代の誰でも得る事が出来て、剣道初段クラスの力は得られるようになったので、誰でも11階層から15階層程度までなら踏破できるようになったそうだ。
そして、そんなことを――、
「兄貴。日本刀買ってみた」
たまたま実家に立ち寄った俺に見せびらかすようにして日本刀を自慢してくる俺の弟の浩二は自慢げに語っていた。
「いくらしたんだよ……」
「120万円!」
「たけぇ!?」
思わずの価格にビックリだ。
普通に剣鉈でもいいだろうに。
「なあ、浩二。日本刀を買ったってことはダンジョンに入ったのか?」
「――ん? あ、ああ……。会社の方からも業務命令で入っておくようにって言われてさ」
「ほー」
「兄貴もダンジョンで稼いでいるんだろ? しかも、かなり」
「まぁな。それよりも業務命令でダンジョンに入るようにって何かあるのか?」
「特にないんじゃないかな? でもアイテムボックスって便利だよな! コミケとかで大活躍するはずだし」
「そういえばそうだな。あとは満員電車でもスペース確保のために便利だよな」
「そうそう。買い物に行ったときも帰りは楽なんだよ。兄貴もアイテムボックスが使えるんだろ? もっと使い方とか試行錯誤してみたらどうだ?」
「具体的には?」
「兄貴、ちょっといいか?」
台所まで弟のあとを追ってついていくとガスコンロに火をつけて、ずーと火に手を翳したまま。
1分ほど経過したところで、
「兄貴、ちょっと外いいか?」
「まぁいいけど」
弟と一緒に玄関から外に出て、周囲20メートルほど何もない開けた場所に到着すると弟はニヤリを笑う。
「ファイアーボール!」
弟の手の平から、直径1メートルほどの炎が発生して砂地の地面に落ちた。
「……それ、魔法じゃないよな……。ただの都市ガスの炎だよな?」
さっきガスコンロの炎に向けて手のひらを向けていた弟の行動を見て俺は理解していた。
「しかし、アイテムボックスに炎を収納できるってのはデカいな」
よくよく考えてみれば、水魔法で作った水も収納することが出来るのだ。
炎が収納できない理屈はない。
「だろ! 兄貴のアイテムボックスは容量がデカいんだよな? それなら火事が起きた現場の炎とか、まとめて収納して後で小分けして使う事も出来るんじゃないか?」
「たしかに……。――と、言うか氷河期世代のアイテムボックス持ちが消防署に一人か二人いるだけで、火事の炎とか収納すれば一瞬で鎮火できるのだから、安全面含めてかなり有用なのでは? 何故に、ダンジョンが出来てから半年以上も経過しているのに誰も気がつかなかったのか……」
「気がついた俺、天才だろ? 兄貴!」
「まぁ、たしかに……」
俺もアイテムボックスから、空気を収納して確認する。
するとアイテムボックス内に、空気100グラムと追記がある。
これは、宇宙開発でも使えるのでは?
宇宙に物資を送る際には、1キロ100万円かかるし、スキル【アイテムボックスI】ですら100キロのアイテムがアイテムボックスの中に入るので、1億円分のアイテムを運ぶことだって出来る。
飲み水や空気を含めて極めて有用だ。
会社が社員に向けてダンジョンに入るようにと業務命令をしたのもアイテムボックスの有用性と活用方法が無限にあるからだという事がここからも推測できる。
「しかし、これは世界が変わるな」
「だよな! 兄貴も、そう思うだろ? オーストラリアで大規模森林火災とか、アメリカで燃え続けている炭坑の町とか、簡単に解決できそうじゃね?」
「いや、無理だろ。スキルがダンジョン外でも使える範囲は、あくまでも日本の領土内のみって記述があったからな」
「あー、そうだった」
それでもアイテムボックスの有用性は俺が考えていたよりも遥かにデカい。