ダンジョン2階層
そこまで決心したところで、何気なくスマートフォンの時計表示画面を見て見れば時刻は午後5時を過ぎていた。
自宅からの移動時間を含めると、一日の日本人が従事する労働時間に匹敵する時間をダンジョンに費やしていたことになる。
それでも、スタートダッシュはきちんとしておきたい。
昔の黎明期MMORPGの時代だと、スタートダッシュを上手く出来れば、それなりに稼ぐようなシステム構築が出来たからだ。
そして俺は一人でダンジョン1階を散策していて思ったことがある。
一昔前の月額課金制度時代の2000年初頭に大流行したMMORPGを参考にして日本の神様たちはダンジョンを作ったのでは? と、言う仮説だ。
何しろステータスの項目が、完全にそれっぽいから。
――と、なると多少は無理してでも、他プレイヤーに気がつかれない内に、取れるスキルは取っておいた方がいいという考えに至るのは至極全うなことだろう。
「よし、とりあえず10階層までモンスターは出ないって話だから、そこまでの様々な農作物を初回討伐してスキルだけ確保しよう」
この際、疲れがどうとか言ってられない。
この先、ダンジョンの攻略が進めばリソースの奪い合いになるのは目に見えている。
それは、MMORPGでは宿命であり、リソースが割り振られるリソースが有限である可能性を考慮に入れると初回スタートダッシュだからこそ手を抜いたらいけない。
「がんばるか」
養老渓谷ダンジョンの1階層は野菜中心であった。
日本ダンジョン冒険者協会が公開しているダンジョン内MAPを見て報告を確認したあと、畑の中を歩き地下2階へと降りる階段がある方向へと移動する。
もちろん途中でスキル【鑑定】を使う事は忘れない。
何しろ若返りの効果のある野菜が向かっている道中でも存在しているのだ。
回収しておいて損はない。
それに、俺の今のアイテムボックスは6トンまで入れられるようになっているし。
地下2階へと降りる階段に向かっている途中で野菜をアイテムボックスの中に収納していく。
そして階段前に到着した頃には、野菜だけで重量が2トンを超えていた。
「さて、地下2階へと降りるか」
1階層から地下へと降りる階段は、導線がしっかりしているので人通りがひっきりなしだ。
そして、この時間帯から地下へと降りる人たちもいる。
もしかしたら本職を務めあげてからセカンドキャリアとして冒険者として稼ぐ予定の人たちなのかも知れない。
そう考えると無職の俺は少しだけ肩身が狭いが、そこらへんはもう考えることは先送りにすることにした。
どう考えても状況は変わらないのだから。
地下2階に降りると、広がった光景に俺は思わず――、
「稲穂エリアか」
近年、気象の影響で米の価格が5キロ2000円から6000円近くまで値段が上がったので、正直、自炊している身分としてはきつい部分ではあった。
中学生とか高校生の食べ盛りのご家庭はどうしているのだろうか?
少し考えるだけで震えて夜しか眠れない。
「それにしても米が――、稲穂が垂れているということは収穫可能ってことか」
田んぼも水が引いているし、気候も何だか夏が過ぎた後のような感じがあって穏やかだ。
「とりあえず米は高いから最優先だな」
自宅に、もう5キロも米はない。
買うと高い。
そして目の前には新米の稲穂がある。
そこから導き出される答えは一つだけ。
「米の採取がんばる」
日本人だからこそ、米は主食。
新米が食べられるのなら文句はない。
さあ、労働の時間だ!
おっと、その前に鉈で米を倒しておかないと。
――レベルが上がりました。
――米を始めて武器で、討伐したため、スキル【アイテムボックスⅠ】を獲得しました。
――スキル【アイテムボックスⅦ】に統合されます。
――スキル【アイテムボックスⅦ】が【アイテムボックスⅧ】にレベルアップしました。
「よし! えっと、アイテムボックスの容量はと……」
なんと12トン800キロまでアイテムを収納できるようになった。