神々のダンジョンのアップデート
おばさん連中がドナドナされてから、ネットで調べると、俺と同じような境遇に置かれた冒険者がとても多くなっていると日本ダンジョン冒険者協会の冒険者掲示板に書かれていた。
それもトップに常に表示されるほどの更新頻度だ。
「頭が痛い……。俺と同じ境遇に置かれているアイテムボックス持ちがいるのか……」
夕方以降、養老渓谷ダンジョンの外で商品の品卸をしながら思わず溜息が出た。
「佐藤さん、大丈夫ですか? なんだか顔色が悪いようですが」
「まぁ、ハハハハッ。大丈夫です」
そう木戸綾子さんに言葉を返しながら、俺はアイテムボックスから10トントラックの荷台にボックスに入れた穀物を転移させて載せていく。
そんな俺を遠巻きに見ている40代から50代の女性陣達。
「佐藤さん。最近、アイテムボックス持ちを無理矢理ダンジョンに同行させて31階層に向かおうとしている悪質な女性冒険者がいるそうです。気を付けてくださいね」
「あ、はい」
今日の昼にも同じことがあったんだよな。
しかし、こちらを見ている女性たちの視線は本当に分かる。
これがモテ気というやつか――違うな。
今は、木戸商事株式会社の人たちと一緒に居るから、問題ないがまた一人になったら声をかけられそうなくらいの圧力を感じる。
まったく、何とかしてほしい。
「あの、佐藤さん! 一緒に帰りませんか? 送りますよ?」
「そうですね。お願いできますか?」
久しぶりに、木戸さんに送ってもらおうとしよう。
翌朝は、木戸さんの電話で目を覚ました。
時間を確認すれば、時刻は朝10時を少し過ぎたところだった。
「はい。佐藤ですが――」
「木戸綾子です。おはようございます」
「あ、おはようございます。どうかされましたか? こんな朝早くから」
「神々のダンジョンがアップデートされたと情報がニュースで流れています」
「アップデートですか?」
「はい。なんでも氷河期世代は、ダンジョンに入った全員にスキル【鑑定I】とスキル【アイテムボックスI】【剣士I】が自動的に付与されるようになったそうです。さらにそれらのスキルを所有していた人は、レベルが一つ上がったそうです」
「なるほど……」
木戸さんとの会話を終えた後、日本ダンジョン冒険者協会のホームページを開くと、スタートダッシュ組に追いつけるようにと全体的なテコ入れを神々が行ったと書かれていた。
しかも、ダンジョンの外でも日本国内に限りスキルが扱えるようにアップデートが入ったと。
「掲示板にも、書かれているな。氷河期世代の女性達が荷物持ちとして連れて行かれるようになったみたいだな」
自宅のパソコンで確認したあと、俺は溜息をつく。
「これで俺へのストーカーも何とかなるかもな」
昼飯をキュウリで食べたあと、しばらくすると木戸さんから電話が掛かってくる。
しばらくは、氷河期世代の女性達から俺の身を守ってくれるからと養老渓谷ダンジョンの行きと帰りを一緒する事になったのだが、何だかいつも通りな気がする。
養老渓谷ダンジョンで夕方以降に商品の品卸しを行い、ダンジョンの中で採取をしていたが、まったく女性達のギラギラとギラついた獣のような視線を受けることはなかった。
どうやら、ダンジョンのアップデートは、かなり大きかったようだ。
ダンジョン内で農作物を余分に採取したあと、木戸綾子さんが待っているので、早めに切り上げて養老渓谷ダンジョンを出た。
「すいません、遅くなりました」
木戸さんはダンジョンの中に入ることは出来ないが、日本ダンジョン冒険者協会の建物の中に入ることは出来るので、興味深そうに展示物や資料を見ていたかと思うと、目が合った。
「佐藤さん!」
「木戸さん、何か楽しい事とかありましたか?」
「楽しいというよりも、話には聞いていましたけど日本ダンジョン冒険者協会も、それなりの価格で買い取りをしているのですね」
「JAと提携しているみたいですからね」
「ですね。でも、全ての氷河期世代がアイテムボックスを扱えるようになったのでしたら、農作物の価格が下がるかも知れないですね」
「たしかに……。それはあるかも知れないな」
下手をしなくても1階層から10階層の間をウロウロして農作物を収穫して日本ダンジョン冒険者協会に売り払うだけで、日給数万の稼ぎは出るだろうし。
そういえば、スキルがレベルアップしたって、流れてきたな。
一応、自分のステータスを確認しておく。
【名前】佐藤和也
【レベル】58
【HP】A
【MP】B
【STR】B
【DEX】B
【CON】A
【WIS】S
【INT】B
スキル
【鑑定XⅡ】【アイテムボックスXⅢ】【経験値上昇Ⅸ】【ステータス補正Ⅹ】【魔法防御力Ⅸ】【体力補正Ⅸ】【魔力補正Ⅸ】【回復補正Ⅻ】【視力補正Ⅷ】【攻撃力補正Ⅸ】【魔法攻撃力補正Ⅸ】【水魔法Ⅴ】【水魔法耐性Ⅶ】【剣士I】
スキル【アイテムボックスXⅢ】
容量800トンまで収納が可能。