豚は出荷よー!
追いかけてきた40代の女性冒険者モドキを巻いて帰宅したあと、シャワーを浴びて俺は疲れもあって気絶するように眠った。
翌日、朝からキュウリを食べながら牛丼屋に行き牛丼を頼む。
大手チェーン店は、米で差別化を図っているのか。
うちの自宅から近い【早くて! 安くて! 旨い!】を、キャッチフレーズに掲げている牛丼屋は、日本米に凝っているようで、定食を頼めば、お代わり自由で、牛鮭定食を頼み朝食を満喫したあと、近くのスーパーに向かう。
「ダンジョンで牛肉とか豚肉とか出ればいいんだけどな」
そんな事を口にしながら精肉エリアで肉を選ぶ。
魔物からドロップする肉はあるが、価格が非常に高く、やっぱり魔物と言う事もあり抵抗感がある。
だいたい、深層に潜るパーティが増えたからという理由で、肉を回収するパーティが減ったからと言って価格が上がって100グラム数千円とか高すぎる。
豚小間を500グラムとキノコ類を購入して自宅に戻ると、自宅前の側道に見知らぬ車が2台停まっていた。
「なんだか、とっても嫌な予感がする」
購入してきた豚小間とキノコをアイテムボックスに入れたあと、アパートの裏口を通り、2つある階段の内、もう一方の方から部屋へと向かう。
そしてドアの鍵を開けたところで、「佐藤さん!」と、声をかけられた。
それも、昨日、聞いたばかりの声。
鍵を反射的に閉めたあと、俺は視線を向ける。
すると、そこにはケバケバな化粧をした40代後半のおばさんが2人立っていた。
「間に合っています! 新聞とか、宗教勧誘とか」
「違います!」
思わず恐怖にかられて昨日、ダンジョンを出たあとに話しかけてきたおばさん二人に拒絶した態度をとるが、おばさん二人は、笑みを向けてくる。
「(怖い……、非常に怖い……。モテ気とかじゃなくて、明らかに昨日の話の続きだよな?)」
一人、心の中で呟きながら俺は携帯電話をアイテムボックスから取り出して非常時連絡先にかける。
「あの……、それでは何の御用でしょうか?」
思わず敬語になる。
「昨日のダンジョンの話です」
おばさんが話を切り出してくる。
やっぱりか。
――と、言うか、ダンジョンに潜りたい為だけに俺をストーカーするとか病気だろ。
「失礼ですが、ストーカー行為は警察案件ですよ?」
「それは、佐藤さんが私たちの頼みを聞かなかったからじゃないですか? レディファーストという言葉を知らないんですか?」
日本語は通じるのに話が通じない。
「レディファーストも何も俺は断わりましたよね? サポーターとしてダンジョンには潜らないと」
俺は確認するように話す。
すると、顔を般若のようにキレ散らかしたおばさんが「女性が頼んでいるのに、手伝ってくれないなんて問題ですよ! ネットに書かれてもいいんですか!」と、脅してきた。
俺は一連の会話の内容を録音しながら警察にも電話を繋げながら話を続ける。
「それは脅しと取りますが、いいんですか?」
「脅しじゃないわ! 提案をしているのよ! 私たちが作った企画パーティに入れてあげる! と、言っているのよ! 佐藤さんが一緒に来てくれるなら、私たち6人も最前線で活動しているパーティに入れてもらえるのよ! 何が問題なの?」
「何から何まで問題ですが? そもそも、俺は11階層以下に潜るつもりはないので、それと俺の苗字をどこで調べたか知りませんが、個人情報の観点から言っても――」
そこまで伝えたところで、警察車両のサイレンが聞こえてきた。
「佐藤! あんたっ! 警察を呼んだの!?」
「呼びました。正直、ストーカーもそうですが、他人を無理矢理巻き込もうとする行為は非常に不愉快です」
「どうする? 加奈」
「ここは一端、逃げるしか――」
複数のサイレンが聞こえたかと思うと、アパートの階段を上がってくる足音が複数したかと思うと警官の姿が見えた。
そして、「覚えておきなさいよ!」とか「絶対に許さない! この差別主義者が!」などと言い残して、おばさんたちは車ごとドナドナされていった。
「はぁー、一体なんなんだ……」
「佐藤さん。通報されたご本人様で?」
「はい。被害届出します」
「そうですよね」
ついでに接近禁止令も念のために出しておこう。
しかし、まさかストーカーまでされるとは思わなかった。
やはり若返りのポーションの誘惑は大きいようだ。