狙われたアイテムボックス持ち
喫茶店で時間を潰したあとは、いつも通りダンジョン内に入ることはなくアイテムボックスに入れたままの農作物や、穀物、殻を外して冷凍した身の状態のままの貝類を到着して待っていた木戸商事のトラックに積み込んでいく。
「佐藤さん、事前に用意していたんですね」
「どっちにしてもダンジョン内に潜ることになりますが、その方がいいかなと思いまして」
「それにしても佐藤さんのアイテムボックスの容量って、都築さんから聞いていたとおり巷で流れている情報のアイテムボックスよりも容量が多いですよね」
「偶々ですよ、たまたま」
300トン近い作物と貝類を次々とトラックにアイテムボックスからの直接転移で運んだあと、残りの追加注文分については、再度、ダンジョンの中へと入り収獲してから木戸商事のトラックに積み込んだ。
時間的には合計で2時間ほどだが、もうすこしアイテムボックスの容量を増やしたいものだ。
「これで、今日の分は全部ですね」
「はい! 佐藤さんは、このあとはどうされますか?」
「自分は、明日のためにダンジョンに潜っておこうかと」
「あまり無理はされないでくださいねと言うと、佐藤さん困りますよね」
「はははっ」
俺は苦笑いで返す。
そういえば、木戸商事と取引で付き合うようになってから土日含めて休みを一度もとっていない。
「あれ? もしかして……、俺って会社員時代よりも自営業している今の方がブラックなのでは……」
まぁ貯金も100億円を超えたから、それだけの価値はあるんだが……。
きゅうりをアイテムボックスから取り出して齧りながらダンジョン内に潜る。
そんな俺の後ろを付いてくる足音。
1階層まで降りたところで、エレベーターに入ると、40代の女性が6人、同じエレベーターに入ってきた。
午後9時を過ぎたというのに、エレベーターに入ってくるとは……。
また変な時間帯にダンジョン内に潜るなと自分自身を棚に上げて10階層に到着後、エレベーターから降りて、一人、海側へと歩いていくと後ろから先ほどの40代女性たちが6人ついてくる。
何だろうか? と後ろを振り返ることなく俺はアイテムボックスから自転車を取り出す。
歩く方向が同じだったら距離を取るためにと見られてもいい自転車をアイテムボックスに入れておいたのだが、早速役にたった。
自転車に乗り、女性達から距離を置くために立ち漕ぎして距離をとっている間に、「あの!」と、言う声が聞こえてきたがスルーした。
女性達から距離を取った後はジープに乗り海岸へ。
貝類を収穫したあとは、10階層のダンジョン内をウロウロする。
理由は、ダンジョン内の上下を繋いでいる階段が一か所だけなのか? と、疑問に思ったからだ。
幸い、ダンジョン10階層からダンジョン9階層に上がる時には、上空まで伸びるタワーが存在しているので、近くまでいけば階段があった場合、タワーが見えるはずなので、車を運転しながら上下に移動するために階段発見のために邁進する。
――そして、結論。
降りる階段は一か所しかなかった。
ダンジョンから出て改札口を抜けると、40歳の女性が「すいません」と、いきなり話しかけてきた。
とりあえず俺はスルーすることに決めて、駐車場に向かうが進行方向を塞ぐような形で二人の女性が邪魔してくる。
「(何がしたいんだ?)」
思わず心の中で呟くが、口に出すことなく無視して歩き出そうとしたところで、
「アイテムボックス持ちの冒険者の方ですよね?」
――と、話しかけてきた。
思わず溜息が出そうになるが無視しよう。
なんだか怪しい壺とか買わされそうだ。
「あの! 助けてほしいの!」
「助けて欲しいなら日本ダンジョン冒険者協会に届け出を出せばいいのでは?」
流石に助けて欲しいと懇願されて無碍にするほど、俺は人間的に終わっているつもりはないので、そう告げるが――、
「そうではなくて――、ダンジョン31階層まで連れて行ってほしいの!」
「(こいつらは何を言っているんだ?)」
振り向けば全員がハイキングコースを歩くような服装で、ダンジョンに潜るような装備では決してない。
そもそも、俺のどこを見てダンジョン11階層以下に潜るような冒険者に見えるのか。
「俺の活動場所は10階層までの安全地帯だ。11階層以下は知らないし、潜るつもりもない」
「それは大丈夫! 31階層まで潜る予定のパーティがあるから! 大容量のアイテムボックス持ちの人が一緒に行ってくれるなら、私たちも全員連れて行ってもらえるように話はつけてあるの!」
「……他の人を探せばいいのでは? 俺は、31階層まで潜っている時間はないので」
毎日、木戸商事に製品を卸す必要があるのに、地下深くまで潜れるわけがない。
しかし、他人のスキルを利用して高レベルパーティに寄生しようとするとは、問題ありすぎるだろ。
俺は無視して自転車をアイテムボックスから取り出すと、そのまま逃げるようにして、その場をあとにした。