佐藤さんの担当は私ですが、何か文句はありますか?
ホテルで木戸さんと食事したあとは、時間的に養老渓谷ダンジョンに向かう時間になってしまったこともあり、彼女の運転で現地まで送ってもらう事になった。
ただ当然のことながら、夕方までは時間的に早かったこともあり現地の冒険者向けの喫茶店で紅茶を飲むことになった。
養老渓谷ダンジョン前に、新しくオープンした冒険者向けの喫茶店は、特徴を一言で言ってみれば氷河期世代を対象とした古き良き時代のいい意味で言えばモダンな店構えの喫茶店が開店していた。
「駅前の学生さんが利用するような喫茶店ではないのですね」
喫茶店に入って物珍しそうに店内を見渡している木戸綾子さん。
まあ、彼女も20代半ばなので大学生が少し社会経験を覚えたくらいなので、昔ながらも作りをした喫茶店は珍しいのだろう。
「昔は、どこもかしこも落ち着いた雰囲気の喫茶店があったんですよ。それは、都内だろうと駅前だろうと変わらず存在していて、今のような奇抜な呪文のような長ったらしい製品名で注文するような喫茶店は存在していなかった」
「そうなのですか。私は幕張近くのコーヒーショップで、時々、頼んでいました。サクラとか春を題材にしたコーヒーとか」
「そういえば、そんなのがありましたね」
俺は、キリマンジャロコーヒーのブラックを頼む。
彼女は、少し悩んでいたがチョコレートパフェを頼んでいた。
「佐藤さんは、ブラックコーヒーで良かったのですか?」
「飲みなれているので」
「そういえば、以前も夏場なのにホットのブラックコーヒーを頼んでいましたよね」
「あれ? 以前に、木戸さんと一緒に喫茶店に入ったことありましたっけ?」
「――え!? あ! えっと……、夢の中! そう! 夢の中で、佐藤さんと一緒に喫茶店に入ったのですよ!」
「そうですか」
俺が夢の中に出てくるとか、少し顔を合わせすぎなのでは?
まだ年若いのだから、こんなおっさん相手の窓口とか苦痛なのでは?
表情には出さないが聊か、おっさんとしては心配になってしまう。
「そういえば、木戸さんは何時まで自分の担当窓口なんですか?」
「え?」
注文を終えたところで、俺は話を切り出すことにした。
「木戸商事との取引も安定してきましたし、木戸さんは営業課長ですよね? 下の者に業務を任せるとかしなくて大丈夫ですか?」
営業課長なら、俺だけを相手するのに時間を割くのは勿体ないのでは?
そもそも業務が安定してきた段階で後人に任せて別の顧客を開拓するべきなのでは?
そう思い、話を切り出したが――、
「佐藤さんは……、私と一緒にいるのは苦痛ですか!」
「――いや、そうではなくて……。木戸商事と俺との間の取引は安定してきているので、トラックの運転手と自分だけで何とかなるので……。木戸さんだって課長という肩書を持っているのですから、一取引先である俺に毎日、何時間も時間を浪費するのは業務効率からして改善できる箇所と思っただけですが……」
「それなら、私が居た方がいいです。だって佐藤さんとの取引は木戸商事にとっては、とーっても大事ですから!」
「そうですか……」
そこまで言われてしまったら何も言えないな。
少ししてからコーヒーとチョコレートパフェが届いたので、少しギスギスしてしまった空気を何とかしようとしてコーヒーに集中していたところで、店内に設置されたテレビにはニュースが流れていた。
ニュースに出演していた日本一偏差値が高い大学の自称有識者の女性教授は、「女性を31階層まで連れていく義務を法律で決定するべきだ!」とか、騒いでいた。
「31階層って、かなり危険なんですよね?」
「らしいですね」
神々のダンジョンは11階層からモンスターが出る。
そして、今日の朝までに死亡した人間は全員が11階層で死んでいる。
つまりダンジョンを舐めて11階層で全滅したということ。
よって、今現在の神々のダンジョンで死亡した男女比は0:100と、死亡したのは全員が氷河期世代の女性と言う事になっている。
「そうですと、31階層まで連れていってもらっても狩りにならないですよね?」
「自分もそう思いますよ」
木戸さんの言葉に俺は頷いた。