ホテルバイキング
――若返りのポーションがオークションで大々的に売りに出されてから2週間が経過した頃。
「佐藤さん」
そう俺に話しかけてきたのは、木戸綾子さん。
彼女から、食事でもどうか? と、誘われてホテルのバイキングランチだったこともあり、ノコノコと一緒に食事にきたわけだが。
「何でしょうか?」
ホテルのバイキングなんて20年ぶりだったこともあり、ローストビーフなど多種多様な料理の数々に興味を引かれて様々な料理をとってきたわけだが、それを口にしていたところで木戸さんが話かけてきた。
「この2週間の間、日本中に発生したダンジョン内での死亡率が跳ね上がっているそうです」
「そうなんですか」
そういえば、プラカードを抱えていた40歳から55歳のおばさん集団の姿が、2週間の間に消えたなと思っていたが、関係あるのか。
「はい。なんでも11階層以降で、スキルなしの氷河期世代の女性たちがダンジョン内で死亡していることが多いそうです。まだニュースにはなっていませんが、恐らくは近い内にニュースで流れるかと」
「それは会社経由の情報ですか? それにしても何故に自分に情報を?」
「えっと……、それは……、佐藤さんもダンジョンに潜っていますよね? それで一応は念のために……」
「あー、なるほど。自分は大丈夫ですよ? 毎日、農作物と貝を木戸商事に納入しないといけないのでダンジョン10階層以下(11階層以下)までは下りる予定はありませんから」
「そうですか。でも、いいのですか? 31階層以下だと若返りのポーションが出るんですよね?」
「まー、それはそうみたいですね」
俺はキュウリを食べているから、少しずつ若返っているから、その辺は問題ないが、それを目の前の木戸さんに説明する必要はないので口には出さないことにしてる。
「たしか100億円するとか――」
「先日、再出品された若返りのポーションは海外の資産家が200億円で落札したみたいですね」
「お金ってあるところにはありますよね」
木戸さんの溜息交じりの言葉に俺も頷く。
この世界では、総資産40兆円とかいう国家予算? と、思わしき資産を持っている人がいるからな。
そういう人から見たら200億円とか大したことないのだろう。
「でも、実際、若返るんですかね」
俺は、そこが気になった。
「一番最初に売りに出された若返りのポーションを使用した老衰寸前だった資産家のご老人が一命をとりとめたらしいので、その効果は実証されたみたいです」
「そうですか。そうなると、これからオークションで価格がつり上がる可能性がありますね」
「はい。それで、佐藤さんも潜るのかと思って気になって――」
「それで食事に誘ってくれたと?」
なるほど、たしかに取引相手が危険に身を投じる場面になったら困るよな。
まぁ、俺はそんなことはしないけど。
「そういえば、木戸さん」
「はい」
「何人くらい亡くなられたのですか? 氷河期世代の女性は」
「5000人前後と聞いています」
「5000人……。ダンジョン数で割ると一つのダンジョンにつき100人ちょいですか」
「はい。そうなります」
「それは流石に……」
いくらダンジョン内での死亡は自己責任とは言え、それは死に過ぎでは……。
いや、ハイキングや登山だと勘違いしていてダンジョン内に潜ろうとしていたから、当然の帰結なのか?
だけど、規制されることはないんだろうな。