土地売買
「それで如何いたしますか? 佐藤様」
「そうですね。これから土地の価格が跳ね上がるかも知れないことを考えると、購入します」
「本当ですか?」
「はい」
1万坪の土地が1億円。
養老渓谷ダンジョンが出現するまでは、1万坪であっても1500万だったらしいが、これからの事を考えると必要経費と言えるだろう。
「それでは、一軒家の建築に関してですが、ハウスメーカー様にされますか? それとも、一級建築士の方に依頼なされますか?」
「一級建築士って、自分だけのオリジナルの住宅設計をお願い出来るってことですよね?」
「はい。そうなります」
「なるほど……。それでは、それで」
ハウスメーカーに頼むと画一的な似たり寄ったりの形になってしまうとの事だったので、少し自分好みの家を注文する事にしよう。
「あ、ところで支払い方法はどうしますか?」
「まずは土地の方ですが現金一括払いで購入します」
「ほ、本当ですか? 住宅控除などが受けられませんが――」
「経費ということで落とすことにしますから大丈夫です」
「そうですか、分かりました。それでは、土地権利関係に関して手続きを進めておきますので、後日、ご連絡をいたします。その時に当社の建築士を紹介いたします。ところで、佐藤様は、ご希望の――、どのようなご住宅が希望とかありますか?」
「そうですね……。周りの景観を壊さない感じの方がいいですよね?」
田舎だと、あまり斬新な出来な一軒家だと色々と言われそうだからな。
外観だけは田舎向けという感じがいいだろう。
大多喜不動産と別れたあとは、養老渓谷ダンジョンへと向かう。
時間としては数時間早い。
そのため、木戸商事のトラックなどは到着してはいない。
「とりあえず――」
俺は養老渓谷ダンジョンの方へと視線を向ける。
視線の先には、ダンジョンへと入るためのパーティを探している氷河期世代の女性たちの姿が見える。
近づけば女性たちは、全員が地下31階層を希望しているらしく大きなプレートを手に売り込みをかけていた。
「ダンジョン31階層まで連れていってもらえればいいから!」
そんな声が聞こえてきた。
視線を向けて見れば、50歳近くの女性4人が、皮の鎧を着た6人パーティに話しかけている場面だった。
「そんなことを言われても困る。頼み込むのはいいが、彼方(貴女?)達は何か有用なスキルを所有しているのだろうか? 出来ればアイテムボックスでもあれば荷物持ちとして連れていってもいいが」
そんな話を40歳半ばの男が口にした途端、4人の50歳近くの女性たちが般若のような表情になる。
「スキルを持っていないから連れていけ! って、言っているのよ!」
「話にならないな。君たちはダンジョン内では、生死に関して自己責任だと講習を受けていないのか? 俺達は6人で2週間かけて地下28階層まで潜っている。今回は30階層のボスモンスターを倒す予定を考えているが、何のスキルも所有していない人間を同行させたら食糧や水が足りなくなるのは目に見えている」
「だったら、私たちの分までもっていけばいいじゃない!」
「そうよ!」
「そうよ!」
「そうだわ!」
食糧や水に関して懇切丁寧に説明した男の冒険者に対して女性陣たちが発狂しているが、男の冒険者達は肩を竦めると、冒険者カードを取り出して女性たちを無視してダンジョン内入り口前の改札口を抜けてダンジョンを降りていく。
「待ちなさいよ!」
「逃げるつもりなの!」
何か喚いているので、ターゲットにされないようにして、こっそりと改札口を抜けてダンジョンへと足を運んだ。
まったくカオスな状態になっているな。