食べ比べ
「あの……佐藤さん」
「何でしょうか?」
「もしかして木戸商事が運営しているスーパーの商品、青果などを購入されたりしましたか?」
木戸さんが、恐る恐ると言った様子で聞いてくる。
「自分が、気がついたというよりも、知り合いに教えてもらいました」
「それって……、あの女性からのアドバイスですか?」
「そうですね」
「……そ、そうですか」
答えた途端、何故か知らないが車内の雰囲気が重くなる。
何故か分からないな。
「でも、やっぱり味が落ちていたんですね」
「申し訳ありません」
「いえいえ。木戸さんが謝罪する事ではありませんので」
「――で、でも! 月の初めは味はいいので!」
それは、逆に言えば月のスタート以外は、農作物関係の味は悪いという事になるんだが……。
「あ、もしかして貝類も?」
「貝類に関しては、そのまま食べるという事はありませんから。ただ、もしかしたらと言う可能性はあります」
「なるほど……」
そうなると収穫する場所や、収獲する場所は、逐一、場所を変えるしかないな。
幸い、10階層までは広さ的には、かなりのものだし。
少なくとも、俺が車を運転して調べた限りでは1階層ごとの面積は、一都道府県に匹敵しているような感覚だし。
「もしかして改善方法とか見つかったのですか?」
「それは、これからですね。ただ、もうすぐ月末ですので今日から収穫する方法が正解なら味は劇的に戻るはずです」
「そ、そうなのですか……」
「はい」
「分かりました。佐藤さん! 頑張ってください!」
「任せてください! 木戸さんとは、ビジネスパートナーですから」
「……」
何故か知らないが無言になってしまった木戸さん。
車内の空気は、さっきまで重かったが、今はもっと重い。
どうやら、何か言葉選びに失敗したようだが皆目見当がつかない。
重苦しい車内の雰囲気のまま、養老渓谷ダンジョンに到着したあと、ダンジョン1階層まで降りたあとエレベーターで10階まで降りたあと、スキル【鑑定】を使い、1時間若返りの付与がついている新米を調べる。
範囲指定して検索したが、周囲には見つからない。
アイテムボックスからジープを取り出し、車に乗りながら範囲鑑定をしていると、1時間若返りの付与がついた稲穂が見つかる。
「結構、距離があるな」
階段から車で1時間の距離で見つけたところでスキル【アイテムボックス】を開き、範囲指定したあと、見渡す限りの稲穂ごと新米を刈り取る。
「これで味が改善されればいいが……」
日本人としては、不味い米ほど悲惨な事はないので少しでも美味しい米を流通させたいという気持ちはある。
それに取引先相手の評判を落とすような商品はよろしくない。
長期的に見て。
何度か場所を変えて若返りの付与の稲穂が残っている田んぼを発見しては、周囲の新米を稲穂ごと数トン単位で収穫していく。
新米の収穫が終わったら、本日、頼まれていた野菜や果物、貝類、穀物も採取する。
もちろん、鑑定スキルを使い若返りの付与がついている畑を中心に。
「やっぱり違うな……」
若返りの付与がついているキュウリの周辺の畑でとれた一般的なキュウリと、若返りの付与が存在していないキュウリ周辺で収穫したきゅうり。
「しゃっきり感がない……。そして、こっちはしゃっきりぽんな感がある……」
食べ比べて見れば良く分かる。
俺は、いつも若返りの付与がついているキュウリしか食べて来なかったから気がつくのが遅れた。
「もっと注意しないとな」
これが本物の農家様とかだったら野菜や果物の出来とか一目で分かるのかも知れない。
鑑定スキルも万能ではないという事だろう。




