進撃の魔物たち
お昼は、何故か菊池さん自宅に招待された。
菊池さんの自宅は、昔の農家の家と言った感じで、平屋の戸建て。
さらに倉庫もいくつかあり、軽トラックに乗用車、軽自動車と何台も車が停まっていた。
通された部屋は、縁側を望む昔ながらの作りの場所で、10畳近くある畳の部屋には四角いテーブルが鎮座していた。
「さあさあ、佐藤さん! 座ってください!」
流れ的に断れず胡坐をかき座っていると、テーブルの上に次々と料理が運ばれてくる。
それは御袋の料理と呼ばれる肉じゃがとか、きんぴらとか、そういったお惣菜関係がメイン。
「あの、菊池さん」
「お母さんも菊池だから、涼音でいいですよ?」
「そうですか。それで、涼音さん」
「はい」
料理を運んでいた手を止めて俺をジッと見てくる菊池涼音さん。
「何か手伝うこととかありませんか?」
「いえいえ! 佐藤さんには、十分に手伝ってもらいましたので、ゆっくりしていてください」
「そうですか」
まぁ、他人の家に来てまで、しゃしゃり出るのは違うよな。
しかも、ゆっくりしていてくださいと言われたら、ゆっくりとすることしかできないよな。
俺はアイテムボックスからキュウリを取り出しルーチンワークの如く、気分を落ち着けるために食べる。
――その頃の台所。
「ねえ、お母さん」
台所で料理をしていた菊池涼音の母――、菊池楓に娘の菊池涼音が話しかけた。
「どうしたの?」
「佐藤さん。全然、私を意識してくれないんだけど……」
「頑張りなさい! 本来なら10日は掛かる田植えを10分で終わらせることが出来たのよ? しかも実家は弟さんが継いでいるらしいじゃない」
「うん」
「それに、涼音も嫌いではないのでしょう?」
「それは、そうだけど……。あまりにも女として見られていないから……」
「でも、ストーカーよりはずっといいでしょう?」
「それは、そう」
「それに、佐藤さんはアイテムボックス持ちの冒険者よ? 今後のことを考えると、農業に偏見な思想を持っていないで、働き者で、長男なのに婿に入ってくれそうな男って良物件じゃない! しかも、佐藤和也さんは、冒険者としても規格外よ? 逃したら大きいわよ!」
「――うっ……。分かっている」
「少なくとも、木戸商事さんのところの娘さんにとられるのは駄目よ。これからの農家の在り方を考えると、佐藤さんを婿として迎えることは多古米を栽培している農家としては大事だから」
「分かっているから……」
「うん。分かっているならいいの。でも、私としても母親として娘が望まない結婚は応援できないけど、佐藤さんなら大丈夫なのでしょう?」
「それはそう。同世代の男と比べて佐藤さんは性的な目で私を見てこないし……」
「なら、がんばりなさい」
「うん。がんばる!」
――二人が台所で会話を終えた頃。
「眠くなりそうだ……」
精神的疲労というのは、若返りの付与がされているキュウリを食べても治療されることはない。
よって、眠気を何とかしようとした俺は、テーブルの上に置かれているテレビのリモコンを手にとってテレビをつける。
そしてチャンネルを回していたところで、緊急速報ニュースが流れていた事に気が付ついた。
テレビの中ではニュースキャスターが、ロシアのラザレフという都市が、モンスターによって壊滅したと慌てた口調で話していた。
どうやら、樺太とロシアの間のもっとも狭い海峡を泳いで渡ってきた魔物である狼により、住民な逃げ出す暇もなく警察組織含めて全滅したらしい。