米の買い取り価格は上がりませんか?
今後は、収穫場所が重複しないように移動して収穫するとしよう。
おそらくは1時間若返りの付与がついている野菜や穀物、小麦などが同じ場所から収穫できないのも、同じ理由だと思う。
そう結論付けたあとは、他愛もない会話をしつつ、現地に到着した。
到着した場所は、見渡す限り地平線まで続く田畑ではなく、きちんと田んぼを挟んで向こう側に農家の建物が見えた。
見渡す限り、田畑や田んぼという光景はダンジョン内だけの物であって、少し感覚的に麻痺していたようだ。
「見渡す限りが、うちが田植えをする場所になります」
乗用車から降りたところで、菊池涼音さんが説明してくる。
「見渡す限り……。それって……、かなり広いですよね」
「はい。田植えだけで一週間前後かかりますね。もろもろ含めて一か月は――」
なんだか色々と説明を受けるが、思ったよりも手間がかかるようだ。
説明を受けていると5キロで4000円でも安い気がしてくる。
ただし、JAが米を生産者である農家から購入する場合は、60キロで18000円前後らしい。
今年の収穫からは、米が足りなく集めることができないので2万円を超える価格でJAが買い取り価格を提示しているらしいが。
高いところだと2万4000円らしい。
つまり、5キロ2000円で買い取るらしい。
思わず「それって末端市場価格で安く売るつもりはないという事では?」と、少し考えてみれば分かってしまう。
「安くうると赤字ですよね。JAの」
「そうですね。ただ、JAが悪いというよりも農林水産省の減反政策が一番の原因だと思っています。あとは、物価が上がっても給料が上がっていないのが一番の要因かと」
「あー、それはありますね。世界的に見て日本だけ、ずっと給料が上がっていませんからね。最低時給が上がっても微々たるものですし」
「はい。海外ですと、日本が切り捨てた氷河期世代の時代から普通に3倍から10倍と言った感じで、収入が上がっていますからね」
「分かります。物価上昇だけでなくインフラも含めて、ここ30年で2倍以上に上がっているのに、8割超えの労働者の賃金は半分になっていますからね」
体感的には、4倍以上の物価上昇が発生している。
増税などを含めると、4倍では効かないだろう。
よくよく考えてみれば、ギリシャやベネズエラよりも遥かに日本の政治形態はオワコンなのに、経済破綻しない方が不思議でならない。
何しろ、日本には土地も天然資源も何もない。
普通なら、とっくに国家破綻してもおかしくはない。
それなのに何とか踏ん張っていられるのは、人的資源を消費しているからに他ならないからだろう。
そして、それは少子化に直結している。
だからこそ、神々が危機感を覚えてダンジョンを作ったのかも知れない。
「はい。でも、出来れば買い取り価格を5キロ4000円前後まで上げてもらいたいのが農家としては思いますけど」
「そうなると末端販売価格とか5キロで6000円とか7000円になるのでは……」
「でも、そうしないと肥料代とか含めて大変ですので」
「あー、ですよね」
あっちを立てれば、こっちが立たずってやつだな。
「あ! お母さんの車が来ました!」
視線を向ければ、大型のトラクターが俺と菊池さんが立っている場所の目の前で停止した。