ダンジョンの最果ては空高くまで届く壁だった。
「木戸さん、とりあえず玄米を稲穂から分離させることができましたが、どうですかね?」
アイテムボックス内で稲穂から分離させた玄米を木戸さんに渡す。
「これは……乾燥されては……」
「あ……」
そうだった。
乾燥と脱穀が必要だったと以前に調べて学んだというのに、アイテムボックスの分離だけで出来ると思ってしまっていたが、これだと等級が落ちて食べられなくなるか……。
「普通に稲穂付きのまま新米を渡した方がいいかもですね」
農業素人が手を出すと痛い目に会いそうなので、米に関しては餅は餅屋理論でプロにお任せする事にしよう。
「それが良いと思います」
そのあと、木戸さんと別れて養老渓谷ダンジョンに潜る。
そして稲穂付きの新米を50トンほどアイテムボックスに入れたあと地下1階に戻る。
1階に戻ってきたのは少し気になったことがあったからだ。
そして気がついたことだが、1階層はペア冒険者が非常に多い。
二人ともアイテムボックスを持っていない事から、恐らくは一人はアイテムボックスのスキル持ちなのだろう。
実際、スキル【鑑定Ⅺ】で調べたところ、レベル2からレベル3の冒険者同士でペアでパーティを組んでいて、一人はスキル【アイテムボックス】、一人はスキル【鑑定Ⅰ】のスキル持ち。
しかも手当たり次第に鑑定しながらアイテムボックスのスキルを持っている冒険者に手渡している野菜は、1時間だけ若返りの効果が付与されたものだ。
「今日は、これで1500万円くらいの稼ぎだな」
そんな二人の内の一人から、そんな声が聞こえてくる。
「鑑定スキルやばいですよね。若返りの野菜とか一日24個も食べたら、実際! 不老長寿ですよ!」
「ああ。1個10万円でも、世界中の金持ちが我さきにと買っていってくれるからなー」
そんなやり取りが聞こえてくる。
なるほど……。
隙間産業というやつか。
スキル【鑑定Ⅺ】で周囲の1時間若返り付与の野菜をチェックするが、範囲5キロ以内の農作物からは、若返り付与の野菜が確認できない。
つまり取り尽くしているということだろう。
1か月ごとに、メンテナンスが入るまで、どれだけの範囲の若返り付与の野菜が収穫されるか想像も出来ない。
何よりも若返り付与の野菜が近場になくなったら遠出しそうだし。
そうなれば、ダンジョン内も隅々まで探索されるようになるだろう。
あまりちんたらしている余裕はなさそうだな。
それにしても、若返り付与の野菜が1個10万円で売れるとか、一日で1000万円以上稼げるなら月3億! 一人あたり1億5000万円の売り上げになる。
翌年の税金の支払いが恐ろしいな。
俺も含めて!
1階層は、若返り付与の野菜を求める冒険者が100人ほどいたので、俺は1時間ほど歩いてからジープをアイテムボックスから取り出し、1階層のマップの端っこへ向けてひたすらアクセルを踏んだ。
どこまで行っても野菜畑。
いい加減同じ風景に飽きてきたところで、唐突に野菜畑から抜けた。
そして、慌ててブレーキを踏む。
目の前には、天高くまで聳え立つ巨大な岸壁。
それが、ずーっと左右に広がっていた。
遠くから見たときには壁があるようには見えなかったというのに。
実際、少し戻ってみると、壁が消えて遠くまで野菜畑がある光景へと切り替わる。
「風景を偽装しているってことか……」
どうやっているのかさっぱり分からないが、神々が関与しているのだから超常的な神パワーとかで解決しているのだろう。
そのあとは9階層まで全部確認したが、全てが同じ仕様になっていた。
どうやら海があるのは10階層ごとというのは普遍的らしい。
いまのところは。