海が浅いよ!
「それは――」
都築さんは靴と靴下を脱ぐと、潮が押し寄せては引いていく場所へ移動し、足で砂をぐりぐりとし始めた。
そして何かに気がついたのか、しゃがんでから立ち上がる。
「たしかに……、これはハマグリですね。しかも、かなり大きい……。あとは――」
こちらを見てくる都築さん。
「佐藤さん、車に乗せた竹刀袋とクーラーボックスを取り出してもらってもいいですか?」
「別に構わないですよ」
ジープを砂浜に移動すると、先ほど、都築さんがジープに載せた竹刀袋とクーラーボックスを取り出した。
そして竹刀袋から取り出したのは釣り竿。
さらにクーラーボックスの中には、ビールが4本と、ツマミと、釣りのための餌らしき物と釣り糸を含めた様々な物が入っていた。
「それは?」
「魚がいるかどうかの確認のために持ってきました」
「なるほど……」
「佐藤さんの分の釣り竿もありますから、どうですか?」
「そうですね……」
俺は少し困った。
魚の現地調査までするとは思わなかったからだ。
魚が、魔物判定の場合、他人がスキルをバンバンと手に入れることが出来てしまう。
それは、どうなんだ? と。
自身の優位性が無くなるのは、かなり不味い。
それどころか、今度のことにも非常に影響のあることだ。
――と、なれば……。
「いえ。自分は釣れた魚を〆ますよ」
俺が倒せばいいだけの話では……。
「いえ。魚に関しては生きたまま持って帰ろうと思っていまして」
「あー」
つまりダンジョン内の生物を外へと生きたまま持ち出すためにクーラーボックスを持ってきたってことか。
そういえばダンジョン内で捕獲した魔物をダンジョン外で倒した場合、その経験値やスキル取得はどうなるんだろう。
どっちにしても――、新規の魔物(魚)を釣らせて、せっかくスキルがもらえるかも知れないイベントを無くすわけにはいかない。
「難しいですか?」
「いえいえ、そうではなくて、俺は素潜りとかも好きなので海に潜ってみてきますよ。どんな風に海中が作られているのかも気になるじゃないですか」
「本当ですか?」
「はい」
どうやら、俺も調査を手伝ってくれると思ってくれたようだ。
俺はパンツ一枚になり海の中へとダイブしようとしたところで、膝をついた。
「――ん?」
「どうかしましたか? 佐藤さん」
「いえ。ちょっと――」
違和感というかありえない想像が……。
俺は海の中へと潜るためにひたすら歩くが、300メートルまで歩いたところで気がつく。
海の深さが20センチほどの深さから、まったく変わらないことに。
そして魚影がいないことに。
「都築さーん!」
俺の声が届いていないのか、都築さんには俺の声は届いていないようだ。
だが、俺はアイテムボックスからジープを取り出す。
そして、海水の上をひたすら走る。
どこまで行っても海の深さが変わることはない。
まぁ、よくよく考えて見れば、現実世界のように深い海があったら、次の階層とか酷いことになるからな。
階層ごとブチ抜いて海を作らないかぎり魚が生息できる本物の海は作れないのだろう。
だが、そうなると海の波はどうやって作られているのか……。
「良く分からないな」
神々が作ったダンジョンのルールは、俺が思っていたよりも色々とあるらしい。




