漁業権と利権問題
「漁業権ですか……」
金宮営業部長が、困った表情をする。
さらに金宮営業部長は言葉を続ける。
「ダンジョン内にまで漁業権を持ちだしてくることは神々が許さないと思いますが、ダンジョン内の海産物関係を一般市場に流すと、圧力をかけてくる可能性はあります」
「だろうな」
木戸社長は頷く。
「だが彼らは、日本国内に対して、継続的に海産物を流通させるというお題目があるからこそ、漁業権の認可を国から取得している。だが、問題は、海外の方が海産物系が高く売れるからと日本国内の市場を無視して利己的に利益を昨今は追及しすぎている事から日本国内の需要を満たせていない事に問題があるわけだが――」
「それでは、そのような部分に風穴を開けることが出来るかも知れませんね」
金宮営業部長の言葉に、木戸社長他、全員が頷いた。
木戸商事株式会社のビル内を案内され、20分ほど経過したところで綾小路さんに電話があり会議室に戻ることになった。
会議室に入れば、
「待たせてしまって申し訳なかったね」
そう話かけてきたのは木戸社長。
「いえいえ。取引先会社の内部を見る事が出来て勉強になりました。それで、如何でしたか?」
「そうですな。すぐには、海産物関係を一般市場に出すことは難しいと結論付けることしかできなかった」
「あー、遠回りに漁業権を有している方たちの利権と完全に重なりますからね」
「理解して頂けて助かります。ところで佐藤さん」
「何でしょうか?」
「佐藤さんは、ダンジョン内に海があると言っておられたが、魚影やアワビ、サザエなどは見られましたか?」
「いえ。海には入っていないので」
「なるほど……。当社にも、氷河期世代の者が何名が在籍しておりますので、佐藤さんと一緒にダンジョンに潜りたいと思うのですが、如何ですか?」
「別に構いませんよ?」
断る必要性とか感じないし。
「ただし、海産物であってもカテゴリーは一応は魔物扱いですので、そこだけは気を付けて頂ければと」
「魔物扱いですか……」
宝塚専務が少し表情を陰にする。
「まぁ、襲ってくることはありませんので、そこは安心してください」
10階層以降の海はどうなっているかは知らないが……。
いや、海までは自衛隊は調べていないとしたら……、襲ってくる可能性も……?
そこは、分からないな。
何度か検証してみる結果があるか。
まぁ、魔物だったら、俺のエクスカリパ―(鉈)が火を噴くことになるが。
「分かりました。それでは都築君」
木戸社長は、チラリと50代半ばの男を見る。
「ご紹介に預かりました都築尚文と言います。一応、ギリギリ氷河期世代ですが55歳という高齢のため、今まではダンジョンには足を運んでおりませんでした」
「そうでしたか。それでは、いつからダンジョンに行きますか?」
「本日からはどうでしょうか?」
「分かりました」
「綾子も、それでいいな?」
「はい。社長」
「では、今日も木戸さん、お願いします」
「はい! あとで迎えにいきますね」
さっき自分の父親に話しかけられたというのに事務的な反応しかしなかった木戸さんだが、俺が話しかけた途端、笑顔を向けてきた。
さすが、営業課長。
取引先相手とは、きちんとしておきたいという事だろうな。
話がまとまり帰宅したあとは、シャワーを浴びて仮眠を取る。
やはり取引先相手との話し合いは緊張していたようで、気絶するように眠りについた。
目が覚めたのは電話の着信音。
「佐藤です……」
「木戸綾子です。今、佐藤さんのアパートの前にいます」
「……あ、はい」
寝起きだったこともあり、電話口のフレーズがメリーさんだなと思いつつ、着替えてアパートを出る。
アパートの前には、木戸さんが運転する車が停まっていたので助手席に乗る。
「あれ? 都築さんは、一緒ではないんですか?」
「都築は、自分の車で行くと言っていました」
「そうですか」
どうやら養老渓谷ダンジョンまでは、木戸さんといつも通り二人のようだ。