ダンジョン1階層(1)
養老渓谷の山の駅から少し離れた場所に急遽作られたばかりのバスターミナルにバスが停まる。
空気が抜ける音と共にバス内に「養老のダンジョン前に到着しました」と、アナウンスが流れた。
誰もが足早に作られたばかりのバスターミナルに降り立つ。
俺も、御多分に漏れずに敷き詰められたばかりと思わしき新品のアスファルトの上にバスから降り立つと周囲を見渡す。
「バスターミナル近辺には、日本ダンジョン冒険者協会関連の建物ばかりだな」
魔物の買い取りや、魔石の買い取り場などが8割を占めている。
あと少し離れた位置に食事処。
これは冒険者が利用する事を目的に作られたのだろう。
建物がプレハブだ。
おそらくきちんとした構造建築物を作るだけの時間的余裕が無かったのかもしれない。
だが、それが逆に古き良き時代のMMORPGで言うところの黎明期みたいな感じを彷彿とさせて、明日の生きる糧を得るためだけにダンジョンに潜る俺の心を少しだけ懐かしい思いを感じさせて掻き立てた。
「屋台が半分と、少し頑丈そうな闇市みたいなものが半分ってところか」
日本の食品業者は海外と違って食品衛生法は、ある程度は守っていると思うので、帰りに何か食べていこう。
稼ぎが良ければになるが。
まぁ、会社都合でクビになったので、あと5か月はタイムリミットがあるから、今日の稼ぎ次第では、アルバイトか派遣を見つけるしかないな。
考えている内に、バスに同乗した人たちがバスの収納スペースから荷物を取り出し終えていたので、最後に俺も自身の荷物を取り出した。
「さて、行くとするか」
一応、日本に出現したダンジョンの予習はしてきた。
1階は、魔物が出ない採取エリア。
それ以降、10階までは同じで11階以降は魔物が出るらしいと。
「まずは1階層を見回るか」
日本国、養老渓谷ダンジョン入り口に近づいてくると、畑の中に小さなドームが作られており、その前に入り口があり、入り口には駅で使われている改札口みたいなモノが20個ほど横一列に並んでいた。
そして改札口のような機械の傍には銃で武装した自衛官の姿も。
「そういえば、神様からダンジョンに人が入らないと魔物がダンジョンから出てきて周囲を襲うって言ってたよな……」
国会中継中にサラリと日本の神々の一柱である天照大御神と名乗った超絶美少女が、言っていたことを思い出す。
だからこそ自衛隊を配置しているのだと。
「まぁ、実際、ダンジョン内部がどうなっているのか分からないからな」
日本ダンジョン冒険者協会から以前に受け取った冒険者カードを改札口の読み取り部分に当てると、改札口を塞いでいたゲートが開く。
ゲートを通り抜けると、まず見えてきたのは、買い取りエリアであった。
「なるほど……」
ダンジョンに入る前にも買い取りエリアがあると。
どうやら、何か所も買い取りエリアが設けられているのは、氷河期世代1700万人を対象にしているからであって、最大人口総数を鑑みて需要を満たすために、あっちこっちに作っているようだ。
まぁ、どっちにしても今日はダンジョンがどういう場所なのか見るために来たのだから、稼げればいいな。
そう思い、地下へと通じる階段を降りていく。
もちろん、前後には氷河期世代の俺と年齢も殆ど変わらない人たちが駅のラッシュ時の階段を降りるかの如く音を立てて階段を下っていく。
階段を下ること1分。
段数としては100段程度といったところか。
階段を下り終えたところで、唐突に視界が広がる。
するとあたり一面、見渡す限り地平線の彼方まで畑が広がっていた。