育毛剤の価格は100億円
「つまり、完全にお見合いの話は潰れたってことですか」
なんだか、罪悪感が残るような言い回しは止めてほしい。
「そうですね。45歳のおっさんと、23歳の女性とか犯罪臭しかしないので」
「そ、そうですか……。あ、養老渓谷のダンジョンが見えてきました」
他愛もない会話をし、養老渓谷のダンジョンに到着後は、いつものルーティンのように果物と野菜をダンジョンで収穫してはダンジョン前の駐車場に停まっているトラックにピストン移動し、4時間ほどで終わらせてから、きゅうりを食べて疲れを取っていた。
少しの間、電話をしていた木戸さんが、自動販売機に向かったかと思うと戻ってきて俺にコーヒーを差し出してきた。
「いつも、すいません」
「いえ。お気になさらず。それよりも、お父様との会食の件ですが、お父様はお忙しいようで、しばらくは出来ないという事になりました」
「そうですか」
俺、何かしたか?
別に心当たりはないな。
まぁ、取引自体は継続する雰囲気なのだから、特に問題はないだろう。
「あの佐藤さん」
「何でしょうか?」
「佐藤さんって、きゅうりを常に食べていますけど、キュウリが好きなのですか?」
「そうですね。きゅうりは大半が水分ですので。それに中年になると太りやすくなるので、食物繊維を考えると、きゅうりは、とっても体にいいんですよ」
「へー」
俺はアイテムボックスから、若返りの付与がついてないキュウリを取り出すと木戸さんに渡す。
彼女は、しばらく考えたあと、駐車場に設置されていた水くみ場まで移動してから水で洗って戻ってくると、そのまま齧りついた。
「おいしいですね」
「でしょう? 味噌もありますよ?」
アイテムボックスから、味噌を取り出して差し出す。
「いただきます」
木戸さんに渡したのは若返りの付与がついてない普通のダンジョン産きゅうり。
菊池さんの件から、若返りの食材については極力、人には渡さないことにした。
実家の家族ならいいが、それ以外は鑑定スキルを有している冒険者が存在している以上、自分の能力がバレるのを防ぐ考えからだ。
「佐藤さん、そういえばダンジョンの攻略最新階数が更新されたそうですよ?」
「そうなんですか」
ダンジョンを攻略するつもりなんてまったくない俺にとっては、そのへんはどうでも良かったので気にしていなかった。
「はい」
「ちなみに何階まで攻略されたんですか?」
「30階までクリアされたようです。ドロップは、育毛剤だそうです」
「育毛剤……、なんでダンジョンにそんなものが……」
「それで、その育毛剤ですが、使うと毛根が死滅した方でも、髪の毛がふさふさに復活したそうです」
「へー」
「価格は100億円で、冒険者オークションサイトで落札されたそうです」
「高ッ」
いや――、金持ちなら育毛剤に100億円くらいは払うのか?
「若返りの付与がついている野菜はありますけど、個数を食べないといけないじゃないですか? でも、育毛剤なら若返ることはできませんけど髪の毛を生やすことが出来ると、海外のお金持ちが購入したそうです。話によると、石油王もオークションに来たとか」
「それは豪気ですね」
30階層か……。
それって決まりが良い階層だから、たぶんボスとか出てきたんだろうな。




