正論でスキルのことは力尽くで有耶無耶にしたぞ!
「それで、今、聞いた内容で、どこが娘さんと感性が合うと判断した点でしょうか?」
俺は、努めて冷静に他人行儀に、営業の時に使ったセールスマンのように笑みを顔に張り付かせて問いかけることにした。
「……そっちが素なのかい?」
「いえいえ。あくまでも今まではビジネスパートナーと言う形で応対してきましたので、それように表情と態度を取り繕っただけです。どんな時であってもパートナーに対する、それ相応の対応は必要でしょう?」
思考しながら、相手から得られる情報を精査しながら言葉を選びながら口にする。
「だから、若返りの付与の食べ物を任意で一人で大量に収穫することが可能なら――」
「若返るから、娘さんとの年齢差は埋まる――、そうお考えですか?」
俺は肩を竦める。
それは大きな勘違いだ。
「正直に言いましょう。娘さんと自分では、二回り、生きてきた時間が違います。それは、昭和に生まれた者の価値観と平成に生まれた者との価値観くらい違います。それは若返っても同じことです。どんなに年齢が――、見た目が若くなっても、そこには人生経験という大きな溝があります。ですので、価値観が同じという言葉は使わないでください。それは幻想に他ならないので」
「……わかったわ」
「分かってくだされば自分からは、これ以上は何もいいません。それと本人の意志の承諾が取れていない状態でのお見合いは止めてください」
俺は、母親に向けても対外的な言葉遣いをする。
それは、俺の意志が介在できない部分で勝手なことをするな! と、言う言葉に他ならない。
「では、俺は、これから仕事がありますので失礼します」
「――え? ちょっと」
菊池さんが慌てた様子で、俺に背後から話しかけてきたので、稲穂付きの米の取引は継続する旨は伝えて実家を出た。
「はぁー」
すっげー気まずいな。
でも、これで菊池涼音さんも、俺みたいな45歳のおっさんとお見合いをしなくていいのだから、お互いにWIN-WINだろう。
まぁ、若い子に言い寄られるというのは、正直、自分の子供(俺は結婚してないし子供もいない)を見ているような気分になるので、何とも言えない気持ちになるが。
俺はタクシーを呼んでアパートへと戻った。
夕方になり、スマートフォンが鳴ったので、外に出れば木戸さんが迎えにきていた。
「ええ!? お見合いさせられそうになったんですか!? それって、おとといの女性ですか?」
「はい。ただ年齢差が離れすぎているため、価値観も違いますから断りましたが」
「そ、そそそ、そうですか……。あれ? なんか昨日話していた内容とか噛み合わないような気が――」
「どうかしましたか?」
「い、いえ! なんでもありません! とりあえず車に乗ってください。道すがら佐藤さんには聞きたいことがありますので」
「そうですか?」
何を聞きたいのか……、あー、税理士の件か?




