米と穀物を納品してもらえますか?
「どうもー」
「あ! 佐藤さん。こんな遅くから来られたのですか?」
「ええ。昨日というか今日の納品というか出荷には、かなり時間が掛かってしまったので。それで今日、出荷したダンジョン産の野菜やフルーツはどうでしたか?」
「販売は明日からです。ダンジョン産ということで10店舗同時に広告を売って販売する事になりましたので」
「なるほど……」
「あ、佐藤さん。後ほどメールを送ろうとしていたのですが、こちらが明日、出荷頂ければと思っていた農作物とフルーツになります」
手渡されたコピー用紙には、海外で栽培されている野菜やフルーツが中心にして書かれていたが――、
「トマトとかって日本で栽培されていましたよね? いいんですか?」
日本で栽培されているトマトまで書かれていたことに少し驚く。
「はい。現在、トマトは気候が不順だったこともあり収穫量が激減していて1個200円まで高騰しているのです。さすがに1個200円では販売することは厳しいので、収穫数が足りない国産品も、ダンジョン産で賄う方向で取締役会議は話を決めました」
「なるほど……」
トマトとか最近買ってないからな。
「そういえば佐藤様」
「何でしょうか?」
「穀物や米類などは、ダンジョン内で収穫などは出来ないのでしょうか?」
「え? あー、できますよ」
「本当ですか?」
「はい。今、米とか高いですものね。5キロ5000円くらいしていますし」
「はい。政府が備蓄米を出しても中間卸とJAが中抜き金額を継続しているために、我々スーパーに卸されてくる金額は代わりませんから」
「それだと、農家さんには――」
「殆ど買い取り金額は代わらないですね」
「あー、なるほど……」
中々、米の値段が下がらないと思ったら裏があったのか。
しかし、米の価格で困っているのは末端のスーパーも同じだったと。
「もし宜しければ、穀物関係を採取してきていただくことは可能でしょうか?」
「大丈夫ですよ。ただ問題が一つありまして」
「問題ですか?」
首を傾げる綾小路さん。
茶色に色染めした綾小路さんのポニーテールが若干揺れる。
それを見ながら、俺は口を開く。
「稲穂ごと新米を回収する事になりますので」
「乾燥と脱穀が必要になるということですか……」
どうやら、綾小路さんは、ソッチ系も詳しいらしい。
「はい」
「佐藤様は詳しいのですね」
「ええ。まあ……」
「それで佐藤様は既に白米に?」
「そうですね」
俺はアイテムボックスから10キロの白米が入った透明な袋を取り出す。
「こちらがダンジョン産の米を乾燥、脱穀、精米した白米になります。知り合いにお願いしていますが」
「これも品質がいいですね」
「そうですね。ダンジョン産の農作物は同一規格というかクローンみたいな歪さを感じますけど」
「消費者は見た目が綺麗なら買っていきますから問題はありません。それに農林水産省の研究者も、ダンジョン産の農作物、フルーツに関しては問題ないとの声明を出していますから」
「そうですね」
それは、俺の日本ダンジョン冒険者協会のホームページで見た。
「それでは、そちらのコピー用紙に書かれているフルーツと農作物を納品いただきましたら穀物系も取ってきていただけますか? それと米と穀物に関しては新しく契約を追加する形になると思いますのでよろしくお願いします」
「それなら、こちらを渡しておきますので代表取締役、役員会議で話を通してきてくれればいいですよ。木戸商事さんでしたら、商売に繋がるようでしたら夜中でも採決を通してくれそうですし」
「よくご存じで」
まぁ、こんな夜の時間帯に秘書を送り付けてくる企業だ。
そのくらいのブラックなことはしてきそうだと予想していたが、予想どおりだったようだ。