水面下で蠢く中国の日本侵略作戦
――時間は少し遡る。
日本ダンジョン冒険者協会、養老渓谷支店長室で佐藤和也に肥料の無償提供を断られた笹口支店長は、佐藤が部屋から退出したあと灰皿を掴むと扉に投げつけた。
「くそがっ! 国に捨てられた氷河期世代のゴミが! 自分達の立場が少しでも有利だと思うと、態度ばかりデカくなりおって!」
ダンジョンに入ることができない60代後半を超えた頭頂部が著しく禿げていた笹口は、体を震わせながら、額に血管を浮かび上がらせたまま叫んだ。
――トントン
「今、何か大きな音がしましたが何かありましたか? 支店長」
「何でもない!」
「分かりました」
大きな物音を聞いて支店長室前まで来ていた日本ダンジョン冒険者協会の職員は、室内にいるであろう支店長にぶっきらぼうに言われたことで、扉の前だというのに一礼して去っていった。
「財務省の面々が冒険者というのは自分の事しか考えていないゴミクズだといっていたが、本当にそのとおりであった! この財務省、事務次官まで上り詰めた笹口昭様からの頼みを無碍にして貴様は日本で暮らしていけないようにしてやるぞ! 佐藤和也!」
苛立ちがピークに達した笹口は、口汚く口にする。
ただ誰も聞き咎めることもない。
そうしている間に、笹口は携帯電話を取り出す。
何度かコールが鳴ったところで、
「山川だが? 笹口、久しぶりだな」
「ああ。久しぶりだな。山川、少し面白い話があるんだが?」
「面白い話?」
「そうだ。お前のところの職員も何人が死亡しているだろう? 天罰ってやつで」
「ああ。そうだな。つまり天罰関係で何かスキャンダルがあるということか?」
「そうなる。西日本テレビが率先して、そのスキャンダルをネットではなくテレビという媒体の中で発信すれば、その影響力は大きい」
「ほう」
「今回、叩いて欲しいのは佐藤和也。女神を妻にしているという冒険者だ。生意気なゴミだ」
「ふむ……。だが、女神の伴侶に手を出せば下手をすれば殺される可能性はあるのではないのか?」
「そこは、間接的に他の冒険者を誘導して殺し合わせればいい。幸い、地下1階層から地下10階層までが立ち入れなくなり日本国内食糧需給率低下は確定。そして、それにより稼いでいた何百万人のも愚民たる氷河期世代をマスコミがコントロールすれば、我々にまで被害が及ぶことはない! 何せ、我々はただたんに情報を公開しただけに過ぎないからね」
「なるほど……。では、テレビと新聞会社を使って徹底的に悪役になるように叩けば――」
「そうだ。氷河期世代というお荷物のゴミ共には、同じゴミをぶつけて捨てればいい」
嫌らしい表情をして悪意の籠った口調でテーブルを何度か叩き笹口は電話口相手の西東京テレビ社長である山川大助に自身の胸中を吐露する。
「分かった」
山川は短く答えると、少し思考したあと、
「それではご意見番と何人か役者が必要になるな。まずは肩書が必要だな。西東京大学の教授である古井曙子を出演させよう。あれなら面白いレベルで叩いてくれるだろうからな」
「あのフェミニストの?」
「肩書だけは立派だからな。あとは何人か売れない経済学者や日本学術会議から論文もまともにかけない利用しやすい人間で出演者を纏めればいいだろう」
「なるほど。流石は山川だな」
「ああ。だが、俺が協力しているのだから――」
「分かっている、分かっている。中国にダンジョンから産出された魔鉱石と農作物を提供すればいいんだろう?」
「分かっているならいい。それと、あまり問題を起こすなよ? 中国政府は、日本を手に入れる為に国防動員法を発動する予定だからな」
「それは……。ようやく、この国を我らが国が手に入れる日が!」
「それまでは、黙しておけ」
「ああ。わかった」
そこで電話は切れる。
日本ダンジョン冒険者協会の一室で一人残された笹口は、山川に言われた国防動員法に体を震わせる。
ようやく日本を中国が支配する日が近づいてきたのだと実感したからであった。
「今の日本にいる中国人は、100万人以上……。国防動員法と同時に日本人を大量虐殺して国を獲る人も近いぞ! ハハハハハハハッ」
二重国籍であり、スパイ活動を行ってきた笹口は高らかに笑った。




