ダンジョン産フルーツ出荷
翌朝は、早めからの入荷予定ということで午前4時少し過ぎには養老渓谷のダンジョン前に到着していた。
もちろん電車は動いていない時間だったのでタクシーでの移動になった。
「免許をとって車を購入しようか」
俺は財布の中身を寂しい目で見ながら心に決心した。
ただし、問題は先立つ金がないということ。
とりあえずタクシー料金が3万円近く掛かったので、死活問題だ!
「さっさと頼まれている納品予定のフルーツを採取しよう」
養老渓谷ダンジョン周辺の整地されたエリアの駐車場は日が昇らない時間だという事もありバスもなくガラガラではあるが、ある一角には冷蔵トラックが10台ほど並んでいる。
それら全てが、10トン近い冷蔵トラック。
「あの長い階段を10往復とか、地味に地獄だな。アイテムボックスの容量を増やす手立てとかないものか。ほら、使っていたらスキルのレベルが上がったりとか」
溜息交じりに、俺は養老渓谷ダンジョンへと入る改札口に冒険者カードを当ててからゲートへと入る。
ダンジョンへと入る前には、冒険者協会の買い取りエリアなどがあるが、今は開いてはいるけど午前4時を過ぎたばかりなので閑散としていて、職員にもどこか疲れが見え隠れしていた。
「日本ダンジョン冒険者協会もブラックだなあ」
まぁ、俺も人の事は言えずタクシーを使って千葉から養老渓谷に着て尚且つダンジョンに今から潜ってフルーツを大量にとってくるのだから、人のことは言えないな。
階段を降りながら、メールで採取する果物をチェックしていく。
「バナナ、キウイ、アボカド、パイナップルがメインか……。あとはドラゴンフルーツとか……」
10種類ほどのフルーツが書かれているが、大半が外国輸入産の果物で、その他は自国生産ではあるが、季節から外れた秋から冬にかけてのフルーツがメインになっている。
「これだと、4階層から7階層付近だな」
まずは4階層に降りて、アイテムボックスを開き視界を確保した上で採取エリアを指定して一斉採取アイコンをクリック。
一瞬にして、パイナップル7トンが俺のアイテムボックスに入る。
「さて戻ろう」
近くのエレベーターまで移動し、エレベーターで地下1階まで移動したあと、階段で地上に出てからゲートを抜ける。
車が停まっている場所へと向かうと、木戸商事本社ビル前で会ったことがある女性が話しかけてきた。
「これは佐藤様。先ほどダンジョンの中に入っていくのを見かけましたが……」
「あー、見られていましたか」
「はい。それで戻ってこられたということは――」
「採取してきましたが、どこにおけば?」
「そちらのウィングボディのトラックの荷台に出して頂ければと。仕分けはアルバイトを10人ほど連れてきていますので」
「分かりました」
どうやら側面が開くトラックの荷台で仕分けをして籠に詰めた上で残りの9台の車で搬送するらしい。
「ところでお名前をお聞きしても? 声をかける際に困ってしまいますので」
「あっ! これは失礼しました。木戸義正の秘書をしております【綾小路ほたる】と言います」
名刺を取り出しながら、自己紹介をしてくる綾小路さん。
俺も営業職だった癖から同時に名刺を取り出し、
「佐藤和也と言います。気軽に佐藤と呼んでください」
まったく気軽ではないが向こうもビジネスパートナーということで頷き、綾小路と呼んでくださいと儀礼的挨拶を行った。
「では、さっさとパイナップルを出してしまいますね」
俺はパイナップルを1トンずつ出していく。
全てのパイナップルは規格が一緒でまるでクローン食品のような歪なイメージを抱くが今の日本人は同じ品質、同じ形の製品の方を好んで買っていくので、そこは問題ない。
「かなり品質のいいパイナップルですね」
「はい」
すでに仕分けというか籠に入れるだけの作業を作業員の人たちが行っている。
アイテムボックスから外に出す時に籠というか場所を指定して出せることに気がついたので、
「すいません。アイテムボックスからフルーツを出すときに籠というか置き場所、置く方法をまとめて指定して出せるようなので、どうやって籠に入れていいのか先に一箱だけ見せてもらえますか?」
「え? あ、はい」
すぐに一箱だけ、どうやってパイナップルを詰めて出荷するのかを確認し、アイテムボックスに登録。
「では、畳んでいる箱を広げてもらえますか? 広げてもらった箱にパイナップルを入れていきますので」
「分かりました」
すでに午前5時過ぎ。
時間は有限。
効率よく仕事はこなさないと。
7トンのパイナップルを箱詰めしたあと、
「それでは次のフルーツをとってきます」
すぐに俺はダンジョンへ向けて歩きだした。