情報提供してくださいだと?
「それでは、ご納得されたという事で?」
「ああ、十分だ。――で、俺を連れてきた理由を聞いても? 少なくても、俺としては冒険者協会からは敬遠されていると思っていたのだが」
「ははっ。そのとおりです。そのために私のようなモノが、支店長に任されているので」
「どういうことだ?」
「そこは、佐藤冒険者もご理解されているかと」
真意を口にするつもりはないと。
ただし、推測することは出来る。
養老渓谷ダンジョン支店のトップが60代前後の男に任された理由。
そして、それを口にできない意味。
そこから考えるに……。
「神の怒りを買って死んでも問題ない人材ってことか」
「ハッキリ言われると困るものですな」
遠回しに肯定してくるところから見ると俺の考えは当たっていたようだ。
まぁ、そりゃ何回も支店長と配下が死んで代わっていて死神なんて仇名をつけられている時点で、そう取られるのも仕方ないな。
でも、俺のせいではないんだけど……。
勝手に喧嘩を吹っ掛けてきて、勝手に自滅していくだけの支店長と、その配下の問題を俺がしたとか思われても非常に遺憾だ。
「――で、話を本題に戻したい、俺をここに連れてきた本当の理由は?」
「そのことですが――、日本中のダンジョンが大型アップデートされたということはご存じかと思います」
「たしか、地下1階層から地下10階層までの農作物回収階層が削除されて1階層からゾンビが出るようになったと先ほどゲート前で職員が話していたな」
「その通りです。今回は、その事に関しての話と考えてもらえれば」
「なるほど……」
――と、なると農作物関係の話ってことか。
で! 俺に直接関係のある話となると……。
「肥料関係の話ということか」
「ご推察の通り、先日、佐藤冒険者から持ち込まれた肥料の話になります」
「――と、言う事は……、俺が持ちこんだ肥料について調査や検査が終わったということか?」
「完全には終わっていません。ですが、今の日本の食糧需給率はカロリーベースで38%、生産額ベースでは64%です。ダンジョンからの農作物収獲が出来なくなっている現状では、海外からの輸入が石油枯渇で行えない以上、非常に危険な域を推移していると言っていいです」
「なるほどな……。それで俺が持ちこんだ肥料を完全には検査、実証出来ていないとしても、肥料を使った上での食糧生産向上を行った上で国内の食糧問題を一時的とは言え解決しようという腹積もりなわけか」
「そのとおりです。現在、佐藤冒険者が持ち込んだ肥料についてですが、協力頂いているランカー冒険者からはデータはないという事でしたので……」
「それで、俺に直接聞こうと思ったわけか」
「はい。本日、ダンジョンのゲート前で捕まらなかった場合は、お住まいの千葉市まで伺う手筈になっていました」
そういえば、住民票の移動をしていなかったな。
そして俺が前に住んでいた千葉市のアパートに行ったら、アパートは全焼しているので連絡はつかなかっただろう。
「携帯電話に直接かけてくれれば――」
「佐藤冒険者は固定電話番号で登録をかけていましたので……」
「そういえば、フモッフ光で契約していたから光電話で登録をかけていたんだっけか」
「そして連絡がつきませんでした」
「そ、そうか。じつは、アパートが全焼していて……」
「そうなのですか?」
「ああ。ちょっとな……」
深くは突っ込むなという気持ちを込めて話す。
「そうでしたか。ですが、本日、佐藤冒険者と会えてよかったです。職員も佐藤冒険者のことは良く存じあげておりましたので」
「なるほど……」
まぁ、俺のことを死神とか言って震えていたからな。
そりゃ俺のことは知っているよな。
「それで話は戻りますが、肥料はどの程度ありますでしょうか? それと肥料は地下何階層で手に入れられたのでしょうか?」
「肥料については、応相談価格で提供するが、肥料を手に入れた場所については、情報を提供することはできないな」
おそらくは冒険者を使って組織的に肥料を集めようと考えているのだろうが、俺が貴重な情報を提供すると本気で目の前の役人は思っているのか。
「肥料のドロップモンスター、モンスターの場所については情報はご提供いただけないと?」
「そうだな」
そもそも俺のスキル【変換】がないと意味がないからな。
変換スキルがない限り肥料を手に入れることができないし。
だったら言わない方がいいだろう。
俺の特異スキルを知られるのは死活問題だからな。




