本日はダンジョンのメンテナンス日です。
朝食を摂ったあとは、ダンジョンへ入ったという記録だけを残しておくために養老渓谷ダンジョンへと向かう事にする。
スキル【ワープ】は万能ではあるが、前回はゲートを通って日本ダンジョン冒険者協会の受付に行ってから、そのまま自宅に帰ったので、不自然にならないように記録をしないといけないのだ。
なので普通にゲート側から行くことにした。
「あれ?」
養老渓谷ダンジョン入り口近くの駐車場に車で移動したところで、ゲート前には大勢の――、1000人を超える冒険者が集まっていた。
その割には、ゲートへと向かわない。
何をしているのか……。
「本日は! 月に一回のダンジョンメンテナンスがある日です! メンテナンスは、午前11時までですので、もうしばらくお待ちください!」
マイクを持った日本ダンジョン冒険者協会の職員の女性が何度も同じ説明をしている。
「そうか……。今日は、メンテナンス日なのか」
日本に出現したダンジョンを神々が月に一回、メンテナンスをする日に被るとは……。
それにしても、午前9時少し過ぎだというのに冒険者の数が多すぎる。
一目で見ても、とんでもない数だ。
鑑定しておこ。
鑑定の結果、集まっている冒険者の数は3257人。
俺は諦めて自宅へと戻った。
「ただいまー」
「おかえりなさい! 旦那様っ!」
俺に抱き着いてくるミツハ。
「それよりも、ダンジョンの方はいいの?」
「今日はメンテナンス日だったから、ダンジョンに行くとしたらお昼以降だな」
「そう。あ! それなら、この時間帯は神々が総出でダンジョン内をメンテナンスしていると思うから、旦那様の紹介を兼ねていかない?」
「いかない」
あまり深く神々と関わったら面倒ごとしか発生しなそうだ。
それに日本の神々はシャイなことで有名だし。
人の前で姿を現したくない神様だっているだろう。
「えー。旦那様を、紹介したかったのに――」
「大丈夫だから。あ――」
「旦那様、どうかしたの?」
そういえば、今、気がついたんだがミツハを両親に紹介していなかった事に今さながら気がついた。
ただ、いきなり実家に顔を出したところで親父がいるとは思えないから、今度、話を通して日取りを整えてから行くとしよう。
「今度、両親にミツハを紹介したいと思うんだがいいか?」
「旦那様のご両親……」
「無理をしなくてもいいぞ?」
「いえ! 是非に! 今からですね?」
「今からだと流石に無理だから日取りをとか段取りを取るから」
「分かりました。ミツハ、旦那様の妻として、頑張ります!」
「普通の人間相手だから頑張らなくてもいいからな。普段通りで」
「はい」
会話のあとは、実家に連絡を入れる。
すると5月の連休がミツハを連れていく訪問予定日になった。
――夕方。
「――と、言う事があった」
弟の浩二が、飽きもせずに俺の家に来て夕飯を一緒に食べたので、そのあとに話をした。
「へー。あの結婚否定派の兄貴が、所帯を持つなんて考えられないな」
「今更だろうに」
「案外、無理矢理既成事実を作るくらい押しの強い外堀埋める方法の方が日本人の男は結婚するのかも知れないなー」
「おい、浩二。何を考えている」
「なんでもー」
「それにしても姉貴が、マジで姉貴になるとは……、そういえば神々の方へは報告は?」
「10月の神無月に出雲に行くことになっているなー」
「それって大変だな、兄貴」
「まあな……」
戦闘があるかも知れないからレベルアップをしておこう。
マジで日本の神々は気分屋な部分もあるから。
「そういえば、今日ってダンジョンメンテナンス日だったんだよな? 兄貴」
「めっちゃ混んでたぞ?」
「そりゃそうだよ。一時間若返りの付与がついている農作物なんてダンジョンメンテナンスが終わった直後しか生えてないんだし……」
「そうなのか?」
以前は鑑定スキル持ち冒険者が殆どいなかったから、一時間若返りの付与がついた農作物は取り放題であったが、今は違うのか。
「怪我をした直後なら即死していない限り復活できる万能農作物だし。たしか、末端相場価格1000万円は超えてるって話だぜ?」
「まじか」
俺のアイテムボックスには数トン単位で若返り農作物があるが、全部売ったらとんでもないことになりそうだな。
「なので兄貴は実は大金持ちだと俺は知っている」
「そうかよ」
だが、これでメンテナンスが終わるまで2時間以上あるのに何千人もダンジョン入り口前で冒険者が待っている理由が分かったな。




