地下18階層からは熊が出るらしい。
翌朝、早めからスキル【ワープ】で養老渓谷地下17階層へと移動する。
移動する場所は、ホール。
早朝早いだけあって人の気配は全くないし、他の冒険者に会う事もなくホールから出る。
「やっぱり時間帯によって人はいないんだな」
念のために地下16階層に上がって、アイテムボックスからのMAP検索からリアルタイム地図に切り替えて確認はしたが、1キロ四方には動くものは日本狼しかいなかったので、今度からワープでダンジョンに来るときには時間を見て移動した方がいいな。
「ふぁーあ。兄貴」
「どうした? 浩二」
「俺、眠いんだけど……」
「遅くまでゾンビゲームしてたのが悪いんだろ。ダンジョンにゾンビがいるんだから、そっち倒せばいいんじゃないのか? リアル・ゾンビハザ~ド!」
「ゲームとリアルはちげーから!」
「それで旦那様、今日は何階層まで行く予定なの?」
「そうだな」
ミツハが、安定のツッコミをしてくる。
「こっちに来る前に、調べてきたけど。日本ダンジョン冒険者協会の冒険者掲示板に書かれている内容を見る限り、今は地下31階層で攻略がストップしているみたいだな」
「ゴーレムが出てくる階層だったけ?」
「ああ。どうやら武器や魔法の類で攻撃しても殆ど効果がないらしい」
「そっか。――ってことは、そこまで向かうってことか? 兄貴」
「そうなるな」
それにしても最前線の攻略組が地下31階層に到達後は、一か月近く先に進めていないって異常じゃないのか?
まぁ、行けば分かるか。
アイテムボックスから、中古で30万円で購入した10トンダンプカーを取り出す。
石油枯渇ニュースから石油関係で動く車の価値は軒並みゴミと化したので30万円で購入できたのはタイミングが良かったと言える。
「毎回、思うけど……兄貴のアイテムボックスの収納能力やべーよな。いまって、兄貴のアイテムボックスの収納量ってどのくらいあるんだ?」
「――ん? 818200キログラムだから……、800トンくらいか」
「818トンって……やべーな。あれだけの日本狼を丸ごと入れても何の問題もないのも納得だな」
弟が『うんうん』と、俺を尊敬するような眼差しで見てくる。
「お前だって800キロまで入るんだろ?」
「800トンと800キロだと全然ちげーよ!」
「そりゃそうだ」
俺と浩二が会話している間にミツハはダンプの荷台に乗ってしまう。
「旦那様! 早くっ!」
「わかった、わかった。浩二、運転は任せたぞ」
「あいよ!」
方角だけ指定して、俺はアイテムボックスからMAPを開いて10トンダンプが進む方向の地形をアイテムボックスに回収して転移設置して段差をなくす。
「それじゃいくとするか」
浩二が運転席に座ったのを確認したあと、俺もミツハと共に10トンダンプカーの荷台に乗る。
「兄貴っ! いくぞ!」
「おう! こい!」
ディーゼルエンジン特有の甲高い音と共に、10トンダンプカーが走り出す。
それと同じくして狼たちが音に寄ってくる。
それらを10トンダンプカーの荷台からアイスランスを放ち倒してはアイテムボックスで丸ごと回収していく。
それに並行しながらダンプカーが走る道を整備していく。
「思ったよりも忙しいな」
なお、前方から向かってくる狼については10トンダンプカーが轢き殺していく。
アイテムボックスに入れると、轢き殺したミンチ状態でアイテムボックスに入る。
ただし、千切れた部分については光の粒子になり消えていく。
そして1時間ほど、草原や森林の中を走ると体育館ほどの黒い大理石で作られたドームが見えてきた。
「あれか」
10トンダンプカーから降りたあとは、ダンプカーをアイテムボックスに入れる。
そしてドーム状の建物に入ると、そこは黒の大理石で作られた建物。
ホールの中には、地下18階層へと通じる階段があった。
それだけではなくホールの中には、20を超える大型のテントが張られていた。
10人ほどの冒険者の視線が俺達3人組に向けられてくるが、どうやらドーム内を休憩所として利用しているらしく、仲間が休憩している間の見張りらしい。
そう結論付けたところで、俺達を注視している視線が気になっていたので、さっさと地下18階層に向かうために階段を降りることに決める。
「お、おい!」
すると何故か少し離れたところに立っていた50代近くの男が慌てて話しかけてきた。
見た感じ清潔そうな男で、スーツを着ていたのならやり手の営業マンって雰囲気だ。
「はい?」
「君は、ここらではあまり見ないが、この階層に来たのは初めてではないのか?」
「まぁ、そうですね」
「そ、そうか……」
ホッとしたような表情を見せた男は口を開く。
「この前のダンジョンのアップデートで地下18階層からは、熊が出るようになったから気を付けた方がいい」
「熊って、あの熊ですか?」
「ああ、あの熊だ。しかも群れで襲ってくる。なので、君さえ良ければみんなと一緒に行かないか?」
「つまり団体で襲ってくる熊に対して、こちらも集団で対抗するという事ですか?」
なんのことはない。
18階層からの難易度が跳ね上がるから、テントを張って仲間を募ってから深い階層に向かう準備をしていたってことだろう。
たしかに、ホール内には俺達と数日前から顔を見合わせた冒険者達が何人もいる。
「ということは地下31階層以下の攻略が進まないのは……」
「あー、前回のアップデートでかなり難易度が上がったって話だぞ」
「そうですか……」
まるで某国のMMOみたいだな。
強くなったらモンスターも強くなるみたいな。
「どうだ? 一緒に行かないか?」
提案してくるサラリーマン。
あまり角を立てないように断わった方がいいな。
「一度、地下18階層に降りてみます。皆さんと同行するにしても、どの程度の難易度なのかを見ないと足手まといになると思いますので」
「そうか……。それなら無理をしない方がいいぞ。少なくとも熊の団体は危険だからな」
「ご忠告感謝します」
こちらを心配していることも含めて俺は感謝すると、ミツハと浩二と共に地下18階層に続く階段を降りる。
1分ほどで階段を降りたところで、同じようなホールに出る。
そして地下18階層のホールにも30近くのテントが張られていた。
やはり見張りを置いているようで、こちらを興味深そうに見ていたが、肉を焼いていた。
「何だか、香ばしい匂いがするな。兄貴」
「そうだな」
鑑定をすると熊肉を焼いていた。
「熊肉って消えないのか……」
「何を言っているんだ? あんた」
俺の呟きに反応をしたのは熊肉を焼いていた男。
「あんた新人だな? 解体するときに魔鉱石周辺の肉を残して解体してアイテムボックスの中に一度収納するんだ。そうするとダンジョン内に吸収されずに、ドロップ品扱いになって消えないぞ?」
「まじか? 冒険者掲示板には、そんな情報は――」
「そりゃ書くと好事家が獲ってきてとか言うからな」
「そうか」
どうやら日本ダンジョン冒険者協会が運営する冒険者情報掲示板に書かれていない情報があるようだ。
だが、これでアイテムボックスに狼が丸ごと入った理由が納得できたな。
「それってゾンビにも適用されたり?」
「ゾンビ? 何を言っているんだ? あんな腐肉何に使うんだ?」
そりゃそうだ。
周りの肉なんて回収して自分のドロップにしたい奴なんていないよな。




