ヨーロッパの石油資源枯渇まで、あと20日。
狼のモンスターを3000匹近く倒したあと、スキル【ワープ】を使い自宅へ戻る。
何時間もモンスター狩りをしていた事でレベルは上がったが、見えない疲労というのは蓄積すると考えて。
「やっぱ兄貴のスキル【ワープ】って便利だよな。便利すぎて国にバレたら大粛清が始まりそうだ」
「そこは、俺が国に利用されるとか考えないんだな」
「姉君がいるからなー」
「浩二よ。妾が、どうかしたのか?」
「いえいえ、なんでも」
まさかリビングから脱衣場まで話し声が聞こえているとは思わなかった浩二の顔色が青ざめている。
少ししてシャワーの音が聞こえてくる。
それを確認した後、弟の浩二が口を開く。
「姉君も、お風呂に入る必要があるんだな」
「そりゃ受肉しているからじゃないか?」
「なるほど」
浩二は、インフラが開通するまでは俺の家で食事と風呂を利用する事になっている。
「それにしても、千葉の方の実家の方はいいのか?」
「実家の方って?」
「だから、お前名義で銀行から融資を受けて購入した家のことだよ。お前、そのままにして、こっちに来ただろ?」
「まー、両親ともに70代後半だからな。一緒に住んでいると、色々と面倒見ないといけないしメンドクサイんだよな」
「なるほどな……」
弟の気持ちは良く分かる。
俺も20代で実家を出たあと、ほとんど両親と会っていないのは結婚は云々の話前に、親からの要望を聞くのが面倒だったからだ。
そもそも親とは話が致命的に合わないし。
「――で、浩二は養老渓谷に来たと?」
「まぁ、荷物はアイテムボックスに入れることは出来たからな。必要じゃないモノは実家に置いてきたけど、だけど兄貴と一緒にダンジョンに潜っただろ? 以前に」
「そうだな」
「その時に得た魔鉱石を売ったお金で実家を買う時の借入金は全額、銀行に返したから。あとは知らん。それに親に蓄財がなくても気にしてない」
気にしていないというよりも、考えないようにしているって感じか。
まぁ、そもそも老後に子供に生活費を強請るような親ってどうなのか? と、俺も思わなくもないからな。
子供にも生活はあるわけだし、老後があるわけだからな。
そのへんは国に捨てられた正社員になれなかった氷河期世代の結婚することも出来ない未来が闇に包まれた人たちの共通の認識なのかも知れないな。
「まぁ、今は神々が力を貸してくれてるようだからな」
俺はリビングのテレビで放送しているニュース番組へ視線を向ける。
そこには、氷河期世代の散財の話が大々的に取り上げられていた。
――今年の新設住宅着工数は127万2288戸にのぼり、前年度比と比べて400%が確認できました。
――増加の98%が氷河期世代という事で、そのほぼ全てが冒険者として稼いだお金が資本とされておりまして。
ニュースで取り上げられているのは、氷河期世代が冒険者として活動するようになってから、不動産関係の取引が増えたことが取り上げられていた。
「車の売り上げも良かったらしいな。兄貴」
「みたいだな。石油が尽きるって話が上がってからはEV系の自転車やバイク、車の販売が増えているから、そのうち巡り巡って日本の経済の立て直しされるかもな」
「兄貴、そういえば海外に移転していた工場も日本に回帰する話聞いたか?」
「そういえば、そんなニュースがあったな。魔鉱石発電システムは、日本だけしかないからな。安定した電気を確保しようとするなら、日本に工場を戻した方がいいよな」
――石油枯渇から、世界経済のインフラが停滞することが懸念されており、日本政府が魔鉱石を利用した発電システムやエンジンをどれだけ海外に迅速に普及させることが出来るかどうかが、現在は注目されています。
未だにニュースがテレビから流れる。
連日、石油枯渇の話と、それに纏わる石油関連商品の買い占めや転売が問題となっていた。
今は、日本国内でも石油関連商品の転売を防ぐために、日本政府主導で全ての医療品関係、石油関係の転売も法律で規制されている。
「やっぱり石油関連商品が規制されるのはきついな」
「だよな。でも、兄貴、それよりもやべーのは――。デイサービス関係じゃね?」
「たしかに……」
今までは1リットル150円後半であったとしてもガソリンが日本中で普通に手に入れることが出来たが、今では、それも難しくなりつつある。
そうなれば年配の人たちが利用していた命綱であるデイサービスすら近い将来、休業状態になることは明白だ。
「魔鉱石エンジンが1基200万円前後として、それをどれだけ日本を含めた世界中に石油備蓄が尽きる前に普及させることができるかどうかだな」
すでにヨーロッパなどは、石油備蓄量は20日を切っているし赤信号もいいところだろうし、赤道から離れれば離れるほど石油資源が尽きたという影響は計り知れないだろう。




