魔鉱石ガチャは儲からない
――ミツハと一緒に魔鉱石の特性を変質させた翌日。
弟の浩二が養老渓谷の俺の自宅に来ていた。
正確には、正しいデータを取るために浩二を呼び出していたわけだが。
「なあ、兄貴」
「どうした?」
「魔鉱石だけどさ、普通に売った方がよくね? 魔力を使ってまで、変質させる意味ってって思うんだけど……」
「普通にデータを取るだけだからきにするな」
「でも、この魔鉱石1個で5000円するんだぜ? 勿体なくね?」
「気にするな。魔鉱石は20万個近くあるからな!」
「俺を、どれだけ酷使するつもりだ!?」
「大丈夫。きゅうりなら配布するから!」
「俺は寿司屋の河童じゃねーよ!」
10時間ほど、キュウリを食べながら魔鉱石に魔力を注ぐ作業を浩二がした結果、ある程度のデータを取ることが出来た。
それは、鉱石の種類が多すぎてどうにもならないということだった。
「あたりは金のインゴットかー」
浩二は、そんなことを呟くが、計測した鉱物の数だけで2223種類ある。
そしてネットで検索したところ、世界で鉱物の種類は4700種類あるらしく、その中から目当ての鉱石を引くのはほぼ不可能だという事だけ実験の結果から分かった。
「金のインゴットが出ても、500グラムだと1100万円だろ? 4700種類の鉱物が全部出て、そのうち金のインゴットが1個でても1200万円の赤字だぞ?」
「……そうすると魔鉱石ガチャしない方がいいよな……」
ミツハは例外として、普通の人間は魔鉱石を変質させるのはリスクしかない。
つまり、赤字になるので相当なレベルで運が良くないと元手は取れない。
ちなみに賢者の石、そしてオリハルコン、アダマンタイト、ミスリルと言った金属インゴットは出ていない。
「日本ダンジョン冒険者協会に魔鉱石をそのまま売る冒険者が多いのは何となく納得できたなー」
「だなー」
俺も弟も理解できたので何となく満足できた。
ただし、納得は出来ても問題は解決していない。
それは石油が枯渇しているという問題だ。
魔鉱石エンジンだって、すぐに需要を満たせるほど市場に供給されるとは思えない。
そうなると既存の電気か、ガソリン車の出番となるわけだが、電気自動車は別としてガソリン車だけはどうにもならない。
土属性の魔鉱石から何とかなると思っていたが完全に誤算だった。
「それで兄貴」
「どうした? 浩二」
「兄貴って、結構、流通業界だと有名なのか? 日本石油協会で兄貴の名前を出したら石油を仕入れることが出来るのなら取引を是非にしたいって社長と役員一同から期待の眼差しを向けられたんだが……」
「いや、どうなんだろうな」
俺は、石油取引関係の仕事はしたことがない。
だが相手が知っていて好待遇でもてなしてくれたのなら何かしらの要因はあるのだろう。
まぁ、今は石油を仕入れる方法がないから何ともできないが。
「なあ、ミツハ」
「どうかしました? 旦那様」
「ダンジョンの中で燃える水――、石油とかって取れる階層とかあったりするのか?」
「一応設定はされていると思うわ。でも階層は分からないわ」
「そっか。階層は不明だが設定はされているということか……」
「兄貴、何を考えている?」
「魔鉱石エンジンが普及するまでの延命措置を考える。今の世界経済は石油ありきの経済だろ?」
「それは、そうだけど兄貴が手を出す必要はなくないか? また変な虫が来ることになると思うぞ」
「違う違う、すぐに魔鉱石エンジンは普及しないだろ? そこで石油を供給できる会社があれば、どうなると思う?」
「色々と大変にはなると思うが、稼げるチャンスとか?」
「ああ。可能性は高いだろ? それに、ミツハの件もあるからレベル上げも必須だしダンジョン攻略をメインに活動していって石油を手に入れる事が出来る階層を見つけたら、そこで石油を根こそぎ回収して売りつけよう」
「そしたら、もしかしたら第二のアラブの王様に!?」
「それはどうだろうなー」




