木戸商事本社ビル前の戦闘
千葉中央卸売市場から近い場所に拠点を置く木戸商事株式会社は、連日の増収と商品の仕入れ作業で夜遅くまで仕事をしている社員が大勢、ビル内で机と向き合っていた。
但し、繁華街とは程遠く大型のディスカントストアや商業施設などがあったとしても、それは夜になると閉まってしまうことで、木戸商事株式会社の本社ビルから一歩でも外に出れば街灯の灯りがあるだけで、人通りは皆無であった。
「嫌な夜だな……」
そんな本社ビルの会長室から外を見ながらコーヒーを飲んでいた木戸茂会長は、小さく呟く。
「会長、何か?」
「義正、お前は何も感じないのか?」
「――え?」
「このピリピリした感じ、若い頃にアフガンに仕事で出向いていた時に感じたモノに近い。すぐに社員に本社ビルから出ないように連絡を回せ」
「会長、どういうことでしょうか?」
「いいから、すぐに本社から出ているものは、そのまま直帰。社内に残っている者には、朝になるまで社内で待機を徹底しろ」
「それでは、労働基準監督が――」
「残業として普段よりも倍の割り増しを金を払うと言えばいい。すぐに行え」
「わ、分かりました」
木戸商事株式会社の社長でもある木戸義正は、実の父親であり会長の命令に応じるべく会長室から出ていく。
扉が閉まったあと、木戸商事株式会社の会長である木戸茂は、ふと何らかの気配を感じて会長室から空を見上げる。
すると、木戸茂の視線の先――、空中には一人の女性が浮かんでいた。
巫女服姿の女性で長い髪はサイドテールに結わえており、その髪の色は水色。
「なるほどな……。探偵から報告があったが、あれが、神か。つまり、佐藤和也関連の火の粉が此方まで飛んできたということは――」
そこまで木戸茂会長が口にしたところで、黒のワンボックスカーが木戸商事株式会社本社ビルの近くに次々と停まり、銃などで武装した集団が降りてくる。
それらの一部始終を見たと、「さて、どうしたものか」と、思考した後、木戸茂は守衛に対して本社ビルのシャッターを全て閉めるようにと会長室から指示を出したのであった。
――木戸商事株式会社前に陣取っていた罔象女神 (みつはのめのかみ)ことミツハは、木戸商事株式会社の出入り口から窓まで次々とシャッターが閉まっていく光景を見て目を細めた。
「ほう。戦いの気配に気がつく者がいるとはな。妾が姿を見せていたとは言え、中々に興が乗る。それに比べて――」
ミツハは上空から木戸商事株式会社周囲に停まる何十台もの黒塗りのワンボックスカーを見て興覚めだとばかりに腕を振るう。
海まで100メートルもない場所で、マンホールが次々と上空に舞うと逆流した海水が上空へと吹き上がる。
「神の気配すら察することが出来ないものが殺人のプロとは――」
吹き上がった海水は、高圧縮され暗殺者と移動用の乗り物に襲い掛かる。
何の抵抗も許されない、敵対する相手が何処にいるのかすら知覚できないまま200人近い朝鮮マフィアは、車ごと細切れにされ瞬殺された。
さらには地面の中に、朝鮮マフィアの体と車体が沈んでいき、あとには何も残らない。
「ダンジョンの養分としては少し物足りなくはあるのかも知れぬな」
佐藤和也と会話している表情豊かなミツハの表情とは掛け放たれた神の表情でもある何の感情も見せない表情でミツハは、そう呟いた。