参戦、大国主と八百万の神々
インフラ設備で電気は先に通すことは出来たがガスと水道関係は時間が掛かるらしく、時間的にしばらくかかるとの話だった。
「旦那様っ。この中華料理とやら、とても美味しいですね」
電気会社と、電気配線業者の対応をしていた事で、お昼を過ぎた俺とミツハは養老渓谷ダンジョン近くの冒険者向けの中華料理専門店に足を運んでいた。
もちろん、高級中華料理店ではなく大衆向けのお昼ランチ価格が存在する中華料理店。
「だろ? この系列チェーン店の四川麻婆豆腐とライスセットは、すごく美味しいからな」
「そうなのですか。たしかに、食べたことのない味です。秦王朝の方も中々に侮れませんね」
「今は中国だから」
「同じ国ではないのですか?」
「世界では、連続して続いている王朝は、本当に限られているからな」
「そうなのですか。趙政は、英傑だと聞いておりましたが、2000年間、国を維持することは叶いませんでしたか」
趙政とは俺は聞いたことがないが、王朝関係者だという事は話の流れから何となく察することが出来た。
「紀元前から国体を維持している国の方が珍しいからな……」
とくに、大陸は他民族からの襲撃とかあるし。
万里の長城という北の民族からの襲撃に備えた壁を王朝が変わっても建設し続けたのは、それだけ古代中国は外敵からの襲撃対処が厳しかった証だろうし。
それに比べて日本は、周りを海に囲まれていたので、攻めるには難しく守りやすいという天然の要塞。
大陸には、城壁があるというのは、そういう意味だと習ったことがある。
「そうなのですね」
四川麻婆豆腐に俺とミツハは舌鼓を打っていたところで、俺の視界に唐突に半透明なプレートが開く。
そしてログが流れる。
――緊急クエストが発生しました。
――襲撃者の殲滅クエスト。
――4カ所を防衛してください。
「な、何だ? こ、これは――」
「どうやら、妾達に害する者が発生したようです」
「どういうことだ?」
「旦那様、少しお待ちを」
空中で指先を動かすミツハ。
その眼は、先ほどまで美味しい物を食べて喜んでいたときは一線を画して冷徹なまでの静かな眼へと代わっていく。
「先日、妾たちに横柄に接してきた連中と親族が、旦那様と旦那様と血の繋がりがある方、近しい人を狙って殺害を決めたようです」
「そこまでするものなのか?」
「知識と知恵の神である思兼神が、警告をクエストとして発注してきたということは、事態はかなり差し迫った状況だと思います」
「そうか……」
まったく、日本ダンジョン冒険者協会は一体どうなっているのか。
俺は、視界に表示されている4カ所をクリックする。
表示されたのは、実家と菊池家と木戸商事株式会社本社と、養老渓谷ダンジョン近くに建設中の自宅、木戸家の邸宅。
その4カ所。
「とてもじゃないが、俺一人だと守り切れないな」
「旦那様、養老渓谷自宅に関しては切り捨てる方向が宜しいかと。旦那様のご自宅に関してですが、旦那様の弟に剣鉈を渡しておけば防衛だけは可能かと」
「そうか……。――いや……、この際だから菊池家の面々は俺の実家に移動してもらうとしよう。そうすれば……」
「ミツハに任せて頂ければ防衛は弟。殲滅はミツハが担当しましょう。旦那様は――」
「ああ、契約が切れているとは言っても火の粉が他人に向かうなら、それが俺のせいなら守らないとな。半年以上、養老渓谷ダンジョンまで運んでくれたのだから」
「分かりました。それでは食後、すぐに」
「ああ」
細かいことは言わずに親父に連絡を入れる。
そして数日は誰も自宅から出ないようにと伝える。
最初は半信半疑な親父であったが、100万渡すからと言ったら現金に有給取るからと納得してくれた。
菊池母娘に関しては、ふるさと納税でたくさん食材を買ってしまったので、消費して欲しいということで、無理矢理に話を通した。
実際は、ふるさと納税なんてしていないが通販サイトで当日から届く高級食材を購入しまくり実家に届けてもらうようにする。
最後に母親に電話をして、海外からのホームステイ相手が数日泊まるからと説明し終えたところで電話を切る。
「ミツハ、一応何とか話を纏めることが出来た。無理矢理だが」
「分かりました。それでは、私は旦那様の妻ということではなくホームステイ? 海外からの留学生という体をとりご家族を守ることにします」
「よろしく頼む」
「はい」
食事をし終えたあとは、本当は家電量販店に行く予定であったら急遽キャンセルして車で実家に向かう。
信号で停まったところでハンズフリーを使い弟の浩二に現在置かれている状況を説明すると浩二の視界にも半透明なプレートが開くと緊急クエストが発生したというログが表示されたそうだ。
細かい打ち合わせは浩二とミツハに任せることにして、実家に到着したあとは、ミツハと浩二を引き合わせる。
「兄貴は?」
「俺は、木戸商事株式会社と本宅の方へと行ってくる」
「一人で2カ所を守るのは無理があるんじゃないのか? 木戸さんに連絡を入れておいた方がいいんじゃないか?」
「いや、流石にそれはな……」
俺は浩二に剣鉈を渡しながら考え込む。
「――守るだけなら俺一人で大丈夫だから姉君は木戸商事株式会社、兄貴は木戸さんの本宅を守る方向でいいんじゃないか?」
「一人でいけるか?」
「まぁ、何とかなると思う」
「ふむ……。それなら妾の眷属を出そうではないか」
「ミツハ?」
ミツハが手を振るうと空中に水が集まっていきミツハと同じ背格好をした半透明なミツハが20体ほど出現した。
「妾の1割程度の力ですが、この数なら何とか時間稼ぎは出来るかと」
「分かった。それではミツハは、木戸商事株式会社の本社の護衛。俺は木戸商事の本宅を守るって感じでいいか?」
「おまかせください、旦那様」
実家の守りが決まったところで、俺はミツハを木戸商事株式会社本社前に下ろす。
「旦那様、ご武運を」
「ああ。ミツハも気をつけろよ?」
「はい」
ミツハと軽く話したあと、俺はミツハに手を振ってから車に乗り込む。
その時にミツハは口を動かしていた。
ミツハが何を言っているのかミラーでは確認することは俺にはできなかった。
妾の旦那様が運転する、この時代の乗り物が去ったあと、
「妾と和也との婚姻仲人予定の暴風の王よ。我々、神々に喧嘩を売ってきた者たちの本拠地潰しは任せても?」
――任せておくがよい。八百万全ての神々の力を総動員して壊滅せよと高天原と大国主の意見は一致しておる。我らが神域を土足で踏み荒らした異国の者たちの殲滅は決定事項だ。
「わかったわ。では、始めるとしましょう」
ミツハの服装が巫女服へと変化する。
ただし、現代ではコスプレに近い衣装である巫女服を着ているミツハを誰も知覚することは出来なかった。
それは、極めて高い霊力を有する霊能者か、呪力を持つ陰陽師しか知覚できない領域の神であるという証拠であった。