氷の女神とローマ帝国な話
昨日は、色々あったこともあり目が覚めたのは、新築の工事現場からの作業音が聞こえてきた頃だった。
壁に掛けておいた時計を見ると時刻は、午前10時を少し回ったくらい。
「思ったよりも、ずっと疲れていたんだな」
欠伸をしながら上半身を起こしたところで、首を抱きしめられたと思うとベッドに押し倒された。
「和也。もう起きるの?」
寝ぼけ眼で俺に話しかけてきた水の女神ことミツハ。
昨日、ファッションセンターで購入した寝間着を寝る前までは着ていたはずなんだが、どうして裸になっているのか……。
俺は慌てて掛布団をかけてからベッドから出た。
「暑いから掛布団はいらないの」
「仕方ないな。今、室内を涼しくするから」
「え?」
俺はスキル【氷魔法Ⅰ】とスキル【風魔法Ⅰ】を同時に使う。
空中に精製した氷。
それに風を当てることで室内に冷たい空気を循環させて充満させる。
それにより、一瞬で室内は10度以下に下がった。
「和也、すごいの。二つのスキルを同時に発動できるのね」
「ああ。火炎魔法と氷魔法を同時に発動させてスパークさせてあらゆるものを消滅させる魔法が使える魔法使いもいるからな」
「何それ怖い!?」
「漫画の中の世界の話だな」
「そんな危険な魔法が書かれた書物があるの?」
「たくさんある」
「人間世界にダンジョンを作ったのって1年少ししか経ってないんだけど……」
「その前から、魔法とか知識だけはあったからな」
「そうなのね」
掛布団から頭だけ出して俺を見てくるミツハも欠伸をしている。
どうやら、室内の温度を下げたことに関しては成功だったようだ。
ただし、それは一次的なモノなので、クーラーを購入しに行く必要がある。
問題は電気がないということ。
良かった、真夏じゃなくて。
これから夏に向けて大気の温度は上がっていくので、我妻さんにはインフラを通すための工事を頼んでおいたが、早めの工事をあとで頼んでおこう。
「それにしてもミツハは水の女神なのに暑さには弱いんだな? ミツハも水の女神なんだから、神の権能とかで室温を下げたりはできないのか?」
「出来るけど湿度が凄い事になるわよ? 湿度100%くらいに」
「それは死ぬからやらないでくれ」
湿度100%とか下手すると呼吸をしただけで肺の中に水が貯まっていく現象になりかねない。
そんな事になったら、水の中で呼吸をしている事と同じになって陸の上なのに溺れ死んでしまう。
「そうね。室温とか下げるとか地域の大気の温度を下げるなら、国津神に何人かいるけど……」
「そんな神様がいるのか」
「ええ。私の知り合いだと水光姫がいるわね」
「それって氷の神様なのか?」
「一応司っているのは氷ね。水も対象はってあるけど……、管轄が氷に近いわ」
「へー。それってダンジョン内で会う事は出来るのか?」
「水光姫は、ダンジョン地下80階層以下の管轄だから難しいと思うわ。私だって本当は60階層以下の担当だもの。和也に出会ったのは、ダンジョンメンテ前の見回りをしていた時だから」
「なるほど……。つまり、ミツハに出会ったのは偶然が重なった結果ということか」
「そうそう。それと水光姫は、かなり攻撃的だから出会ったら戦闘は避けられないわ」
「……(お前も、問答無用で戦闘を仕掛けてきただろ)」
思わず、俺は、無言になりながら心の中でツッコミを入れておいた。
1時間ほどすると、階段を降りてくる音が。
視線を階段の方へと向けると露出の少し多めな白いサマードレスを着たミツハが姿を見せた。
弟の浩二が口にしていた通り、巫女服の下には、それは男性諸君の夢が体現されていた。
「和也?」
「――いや、何でもない」
「このワンピースどう?」
「似合っていると思うぞ?」
腰まで届く青い髪をサイドテールとして纏めたミツハが聞いてきたので、俺は相槌を打つかのように頷く。
「よかった……。それで今日はどうするの?」
「電気会社への手続きに関しては、さっき確認したが午後一番に来てくれるようだから、今日中に電気は通る。ガスについては4日後に開通。上下水道開通までは、一か月以上かかる感じだな」
「上下水道って、トイレとか水とか?」
「そうそう。ミツハは物知りだな」
「ええ。ローマ帝国から渡ってきた知り合いの神が水道橋とか上下水道とかいろいろと教えてくれたりしたもの」
「そうなのか……」
スケールがデカすぎる。
なんだよ、ローマ帝国って……。
それよりもローマ帝国から神様が渡ってきたって……、どういうことだ? そんな話、聞いたことがないぞ?
「そんな神様がいたのか……」
「ネプトゥーヌスって知らない? 結構、有名だと本人は言っていたけど……」
「分からないな」
しかし神様の尺度はすごいものだな。
たしかローマ帝国って2000年以上前の国家だったはず。