新しい目標
周囲から奇異の視線に晒されながらも、男たちからは好奇な視線がミツハに向けられても、さらにその男たちから嫉妬の視線を晒されながらも、
「何だか、あれだな……。とても癖になるような混じり混んだ視線を向けられていて――」
「ゾクゾクしますね!」
「俺にそういう性癖はないからな」
「そうなの? 和也」
「ああ」
「だって、和也」
「――ん?」
「妾と戦っていた時は、すごく嬉しそうな顔をしていたから、和也もそうなのかな? って、思ったの」
「俺にそういう性癖を求められても困る」
ホームセンターの中を歩きながらベッドが置かれている場所に到着したところで、
「これは、ずいぶんと昔とは様変わりした寝床があります。最近の人間は、畳の上に布団を敷いては寝ないのですか?」
「寝ることはあるな。あとは洋風的に寝具を設置して寝る場合はあるかな?」
「そうなのですね」
「ちなみにミツハは、畳の上に布団を敷いて寝るのと、洋風的に寝具を設置してから布団とマットを置くのはどっちがいい?」
「私はどちらでも構いません」
「そうか……」
「でも! 和也と一緒のベッドがいいです」
「お、おおう……」
「夫婦は、同じ寝具で就寝するのが一般的ですので」
自身の頬に両手を添えながら顔を赤く染めて恥ずかしそうな表情で体をくねらせている。
そんなに恥ずかしいなら、言わなければいいのにという言葉が口から出そうになるが、ここは言わぬが華と言ったところだろう。
「なら、それなりの寝具を見つけないとな」
田舎のホームセンターだけあって寝具の数は30近い。
その中からダブルベッドに適した寝具をミツハ主導で選ぶ。
2時間近く、ミツハと一緒にベッドを探した結果、40万円近くのダブルベッドの寝具を選ぶ。
「これでいいと思うの! どう? 和也」
「そうだな。そしたら――」
店員を呼んで寝具を購入する意思を伝えたあと、スプリングマットと敷布団と掛布団もミツハと一緒に選ぶ。
さらに1時間近く使ったあと、スリッパや調理器具、一軒家で使うモノを一通りそろえていく。
「あっ! 枕も大事ですね!」
「そうだな」
二人で大きめの枕と小さな枕をいくつか購入。
料金の支払いを行った上で全てのアイテムボックスに入れてからホームセンターの外に出ると、日が落ちていた。
「午後7時か――。初夏だから、まだ外は明るいな。ミツハ」
「どうかしましたか? 和也」
「食事はどうする? 家のインフラが整っていないから料理は出来ないから何か食べていくか?」
「妾は何も食べなくても生きて――、あっ! 受肉していたのでした……」
「なら何か食べたい物があれば――」
「この時代の食事というのが分かりません。旦那様が食べたいものを食べてみたいと思います」
「そうか」
それなら少し先の焼肉食べ放題の店に行くとしようか。
肉だけでなく寿司もあるし、うどんやそばもあるからな。
焼肉食べ放題では、一番高いコースを頼む。
ミツハが、興味津々で頼んでいたのはそばとうどんにアイスクリームとパフェ関連。
俺は、そんなミツハの前で肉を焼く。
「ミツハは肉など食べないのか?」
「あっ! 思わず、甘い物が……。――だ、だって……。甘い物って昔は殆どなくてお供え物にもなかったから……」
「色々と大変なんだな」
そういえば、昔は砂糖の流通が極端に少なかったらしいからな。
ミツハが甘い物を中心に頼んでいるのも仕方ない。
「ミツハ。人間の体は甘い物だけだとバランスが悪いからな。他に食べられるものがあったら食べた方がいいぞ」
「はい!」
食べ放題で90分フル、食事をしたあと会計後に養老渓谷ダンジョン近くの建設中の自宅へと戻る。
モデルハウス前に到着したところで、
「ライト!」
スキル【光魔法I】で、作り出した光る玉を空中に浮かべる。
完全に日が沈んだ中、光の玉は周囲を明るく照らす。
「これが光魔法……。あの女神の――」
「あの女神?」
「天照の権能」
天照大御神。
日本中にダンジョンを作りだした存在。
「そうなのか」
「うん。たぶん、そのうち会う事になると思うから。出雲で結婚式を上げないと駄目だから……」
出雲か。
つまり八百万の本拠地。
そりゃ天照大御神と会う事になるよな。
その時に天照大御神に不興を買わない可能性がないとは言い切れない。
そして不興を買うイコール死になる可能性は限りなく高い。
神々は、人の命など歯牙にかけることはないのだから。
なら、強くなる必要があるだろう。
――理不尽な事に抗える力を。
問題はダンジョンを作った張本人相手を目の前にして何とか出来ると思うほど己惚れてはいない。
ミツハは水の女神だった時は敵だったとしても、今は好意をもって接してきてくれる。
なら、出来る限りの事はするべきだろうな。
「どうしたの? 和也」
「いや、新しく目標が出来たと思っただけだ」
「目標?」
「ミツハと一緒に暮らす上で大事なことだから」
「旦那様っ!」
ミツハが、感極まったという様子で抱き着いてきた。