神罰
「話? 何でしょうか?」
「そこの娘に関する事と言えば分かる……ぐああああああああ」
俺の問いに、途中まで答えていた日本ダンジョン冒険者協会職員の右腕が唐突にバキバキとあまり聞かない音を響かせたかと思うと、あっという間に細くなり風が吹いただけで在らぬ方向へねじ曲がった。
「そこのムシケラ。妾を何と呼んだか?」
「――き、きさ――ぐああああああああ」
次は、日本ダンジョン冒険者協会職員の左腕がボキメキメキと音を立てるとミイラのように細く変わり果てた。
「もう一度聞くぞ? ムシケラ。キサマは妾を何と呼んだ?」
「――ッ! ……そ、そこの娘と……」
「そうじゃな。妾は、ムシケラである貴様に妾の名を呼んでいいことを許可したか?」
「許可とは……」
「許可をしたかと聞いておる。最近の人間は、昔の人間と違って質問には質問で返すほど退化したのか?」
ミツハが、碧く澄んだ瞳で俺に威圧的に話しかけてきた日本ダンジョン冒険者協会の男を真っ直ぐに見ながら詰め寄る。
「ひっ! も、ももも、もうしわけありません」
「謝罪か? 妾は、許可をしたのか? と、聞いておる。謝罪は貴様と、その親族――、3親等までで問題はない。――で、妾は、ムシケラである貴様に、妾のことを呼ぶことを許可したのか? と、聞いておるがどうなのだ?」
俺と会話していた和やかな雰囲気からは一転。
まるで、何の慈悲も見せない表情で水の女神の表情をしたミツハが冒険者協会の男に問いかける。
「き――、許可は頂いてはおりません……」
「うむ。――で、あろう? 質問には質問で返すという事は、妾ではなくとも失礼な行為だと理解しておくことだ。来世でな」
「ミツハ」
「はい! 旦那様!」
ずっと見ていると、数百人単位の視線がある人混みの中で殺しそうな雰囲気だったので、俺は話に割って入ることにする。
「神罰はあとでいいと俺は思うが、どうだろうか?」
「分かりました。良かったな? ムシケラ。旦那様の恩情により、今、この場で3親等内を処分することは無くなった」
「そ、それは――」
「一週間の猶予をやろう。一週間以内に日本国から出て行くが良い」
そう水の女神の雰囲気を纏っているミツハが口にすると同時に、俺達の前にいた5人の日本ダンジョン冒険者協会の職員たち全員の額に「七」という漢字が入れ墨のように表示された。
「その額の文字が「零」になったと同時に体中から水分が無くなりミイラと化して死す。それが神たる妾に愚鈍にも恐れを抱くことも尊敬も崇拝もせずに話しかけてきた末路と知れ。すでに、貴様らムシケラの三親等内全員の額に同じ文字が刻まれておる。よかったな? 妾が慈悲深い神で。さて、旦那様。行きましょう」
「お、おう……」
ミツハが俺の腕を掴むと歩き出す。
その後ろから弟の浩二がついてくる。
そんな俺達に話しかけてくる命知らずの冒険者どころか日本ダンジョン冒険者協会の連中すらいなかった。
「姉君、すげー」
「ふん。ヒッキー神なら、あの場で関係者全員の首が落ちておった」
「あー」
弟の浩二が、日本政府の幕僚や各省庁の官僚たちの首が落ちた事件を思い出して苦笑いした。