外堀が埋められている気がする!?
「それにしても、これからどうするか……」
「何をだ? 兄貴」
「いや、ほら……、罔象女神様とか、連れていたら目立つだろ? 特に15階層とか……」
「あー、たしかに……」
俺と弟は、水の女神様こと罔象女神を見てから目を合わす。
見た目は、グラビアアイドル並みどころか世界一の美しく可愛すぎる美少女ランキング1位に輝くレベル。
そして、髪の色が水色! もう、この時点で地球人じゃない事がバレバレだ。
――いや、神様だから地球人なのか? ちょっと混乱してきたぞ?
「ご主人様。ダンジョン50階層に転移陣が設置されています。そこからなら1階層まで転移で移動することが出来ます」
「そうなのか?」
「はい」
「それと、私はご主人様の妻なのですから、女神とかではなく、もっと砕けた愛称でお呼びください」
「……愛称……、それじゃミツハノメノカミだから……ミツハでいいか?」
「はい!」
花の咲くような笑顔を向けてくるミツハ。
「それでは、私はご主人様を何と呼べばいいのでしょう?」
「兄貴の名前はカズヤだから和也でいいのでは?」
「なるほど……。それでは、普段は和也様とお呼びいたしますね」
「普段は?」
「はい。私は、こう見ても嫉妬深いのです。独占欲もあります。ですので、必要な時は旦那様とお呼びいたします」
「そ、そうか……」
何だか外堀が埋められていっている気がする。
この感じ、最近も味わったような気がするが気のせいだよな?
「それじゃ兄貴の弟の俺もミツハって呼んでいいのか?」
「却下です」
即答する水の女神様。
「じゃ、何と呼べば……」
「ミツハ様とか?」
「俺と兄貴の扱いの差が酷い件について……」
「旦那様の弟ではありますが、神と人間の間には隔絶した差がありますので」
「なら、何故に兄貴は?」
「私の旦那様ですから」
「あー、そういうことね。でも、ミツハ様だと、周りから変に思われるというか……」
「それなら、人間風に言うのでしたら姉君でいいですよ?」
「お、おう……」
一応、話は一段落ついてないがついたか。
「それで旦那様。50階層まで移動して転移でダンジョン入り口まで戻りますか?」
「――いや、ジープが壊れたから、あと乗用車とバイクしかないから本日は地下15階層を通って地下1階層まで移動する」
「いいのかよ? 兄貴。目立つぜ?」
「もう、仕方ない。この際、諦める」
「流石は、旦那様! 思い切りの良さは、私を殺そうと即決した時の英断に近いものがあります! 思わずゾクゾクしてしまいます!」
「……兄貴」
「何も言うな……」
あまり深掘りはしない方がいいと俺と弟は思い、重い水の女神様と一緒に地下16階層から地下15階層へ上がった。
地下15階層の中ボスが湧くエリアに通じる通路を歩いていると20名近くの冒険者とすれ違ったが、誰もが『ありえない!』と、言う目で俺達を見ていた。
「やっぱり姉君は目立つな」
「私を気にしてくださるのは旦那様で十分です。ね? 旦那様」
「お、おう……」
もう、地下15階層の屋台の前を通った時もテント前を横切った時も、以前に俺達に話しかけてきた冒険者達も呆気に取られた視線を俺達ではなく水の女神ミツハに向けていた。
まぁ、何せ見た目が20代前半だからな。
氷河期世代が40代から55代だとすると絶対にダンジョンには居ないというか入れない年齢だし。
地下14階層に上がった後は、乗用車をアイテムボックスから取り出して運転は弟の浩二に任せて俺は助手席、ミツハは後部座席に座ってもらった。
「これが、人の世界で使われている乗り物なのですね」
そうミツハが興奮した面持ちで俺達というか俺に尋ねてきたので、「そうだな」と返して弟に車を出発させるように指示を出す。
乗用車が走りだしたところでアイテムボックスを起動させて範囲回収アイコンから片っ端からゾンビの魔石を直接回収していく。
そんなことを地下11階層まで続けて階段を上がったところで、ようやくエレベーターがある地下10階層に到着した。
エレベーター前には大勢の人だかりが地上に向かうエレベーター待ちをしていた。
「何だ? あの髪色」
「それよりも、どうして女子大生がダンジョンに入れて――」
「巫女服ってコスプレ? あの髪って、どっかのアニメの――」
次々とひそひそ話が聞こえてくるが、フルシカトして俺達は数人の冒険者と一緒にエレベーターで地下1階層まで上がる。
そこからは階段でダンジョンの外に出ると、改札口前には日本ダンジョン冒険者協会の職員が5人立っていて、「少し話をお伺いしたい。佐藤和也君、ご同行頂けるかな?」と、威圧的に話しかけてきた。