召喚されたのは水の女神の分御霊
流石に俺も自分が殺した奴から手に入れた召喚カードで、眷属とはいえ召喚して使役するのは抵抗があるぞ?
「兄貴が召喚すればいいんじゃね?」
「面倒ごとを俺に押し付ける気しかしないが?」
「だって暴れた場合、対処できるのは兄貴くらいだろ? どう考えても、兄貴のレベルがずっと俺より高いのは分かるし。それに国に使われるくらいなら――だろ?」
「たしかに……。でもなー。俺、迷宮に住むのはちょっと……」
「そういえば、その召喚カードで召喚した奴ってさ。迷宮内のみの生存なわけ?」
「――ん? どうなんだろうな」
日本ダンジョン冒険者協会のホームページを検索するが、召喚カードを購入した人間は召喚が成功した事がないらしい。
そして、ドロップ品である召喚カードを使用した奴の書き込みはない。
「情報が冒険者の間で、意図的に国に渡らないように制限が掛かってる気がするな」
「そうなのか?」
「ああ。国から選ばれた冒険者が召喚カードを使って使役できるようなモンスターなどを召喚できたのなら大々的に発表するはずだからな。――と、なると召喚を成功させるためには条件付けがあるのかも知れない」
「たしかに……。それなら兄貴」
「何だ?」
「ダンジョン内で召喚してみたらどうだ? それで、何かヤバいことが起きたとする」
「そういうのは起きて欲しくはないが」
「で! ダンジョン内で起きた出来事だから、対処したあとも黙っていればバレることはない! なので対処も簡単だろ? 流石に地上に持って帰って自宅で召喚して兄貴の住んでいるアパートが爆発したら大変だし」
「たしかに!」
よし! 仕方ない。
国に召喚カードを渡すくらいなら俺が使わせてもらう。
地下15階層だと目立つので、地下16階層に移動してから周囲に日本狼が居ないことを確認した上で、アイテムボックスから召喚カードを取り出す。
「召喚っ!」
何故か知らないが体が勝手に動いてカードを頭上に掲げた。
途端に、周囲の大気が軋み、ミシッ! と、言う音と共に迷宮内の地面が次々と爆発し、莫大な水が噴き出す。
水は、召喚カードに吸い込まれていき、カードが破裂すると俺と弟の浩二の頭上10メートルのところに直径5メートルほどの水の塊が浮いていた。
水の塊は数秒浮いていたかと思うと、バシャッ! と、弾け飛び中から巫女服を着た水色の髪の20代前半の美少女が姿を見せた。
「……あ、兄貴」
ゴクリと弟の浩二が唾を呑みこみ俺に話しかけてくる。
「大丈夫だ。いつでも戦闘態勢には入れる」
「見た感じ、上から92、60、90だ」
「お前は、どこを見ているんだ」
ほんと、いつ戦闘になるか分からないというのに、何をスリーサイズの分析をしているのか。
俺はアイテムボックスから剣鉈を装備した状態で空中にアイスランスを200ほど待機させておく。
そして、浩二と俺が見ている中で水色の髪をした巫女服の美少女はゆっくりと地面に降り立つと目を見開く。
目の色は深い藍色。
海の深さを連想させる。
召喚カードを使って召喚した水色の髪の美少女は、俺の前まで無防備に歩いてくると、笑顔を俺に向けてきた。
「ご主人様の召喚により罔象女神、嫁ぎに参りました。これからも末永くご寵愛を頂きたく思います」
「「――ん?」」
思わず弟の浩二と共に顔を見合わせる。
ちょっと思っていたことと違う。
「ま、待ってくれ」
「はい?」
「罔象女神 って、先ほどまで俺と戦っていた水の女神の名前ではないのか? 眷属が出てくるのでは?」
「本体が討滅されたので、私は罔象女神の分御霊となります。能力値はかなり弱まっていますので、眷属のようなモノです」
「俺の知っている眷属とは定義が違う……」
「それでご主人様。どうして戦闘準備を?」
首を傾げてきいてくる罔象女神に俺は慌ててアイテムボックス内に剣鉈を入れてから空中に待機させておいたアイスランスを解除する。
「――いや、初めての召喚だったから情報が何もなかったから……」
「そうでしたか。私の知る限り同胞の神々の眷属カードは10枚ほど人間にドロップされているはずなのですが……、たしかに誰も召喚には成功はしておりませんね」
「そうなのか?」
「はい。召喚カードは、主を選びますので単独で倒せない者には、この身を委ねることはできません!」
えっへん! と、巫女服を着た罔象女神は、胸を張る。
その際に身長が150センチくらいしかないくせに巨乳な女神の胸が強調された。
「す、すげえ……。まるで二次元の世界の美少女が三次元に出てきたら、こうなるを暴力的なまでに表現してるぜ!」
弟が俺の背後で興奮して何か言っているが気にしないことにしよう。
「なるほどな……。それだと召喚カードは他人から手に入れるだけでは使えないということか」
「はい。それで、ご主人様はこれからどうされるのですか?」
「地上に戻るつもりなんだが……」
「分かりました。では、ご自宅でお世話になります」
「――え? ダンジョンの中から出られるのか?」
「何をおっしゃって。私は、この日本という国の八百万の一柱であり水の女神の一人です。ダンジョン内だけの存在ではありませんので、安心してください」
「つまり……」
「衣食住を提供するのは、旦那様の甲斐性です。あと罔象女神の神社も建てて頂けると大変に嬉しく思います。建てて頂けますよね? 私の初めてを奪ったのですから」
「罔象女神様! 初めてって神殺しって意味ですか!」
弟の浩二が手を上げる。
「はい! あんなに激しい求婚、初めてでした! 今さら無かったことにはされませんよね?」
「も、もちろん……。(なかったことにしたい。そもそも、ずっとアイテムボックス内にカードは死蔵しておけば良かったと何故に思いつかなかったのか……。少し前の自分を全力で打ん殴りたい)」
「流石は旦那様です!」
仕方なく俺はその場をやり過ごすために話を合わせることにした。
それよりも水色の髪の巫女服のグラマーな美少女とか属性てんこ盛りすぎて、どう考えても目立つだろ。
頭が痛い……。
俺は静かに平穏に適度に稼げれば良かったのに……。
どうしてこうなった。