日本国対氷河期治安維持部隊
「まだ体中がビクンビクンしてて痛い……」
弟の浩二がそんな事を呟きながら、ジープから降りてくると俺の手元を見て目を輝かせる。
「兄貴! それって、さっきの地雷女からのドロップ品か?」
「ああ。どうやら召喚カードのようだ」
俺が浩二に召喚カードを手渡す。
そして浩二も「鑑定!」と口にしているが、すぐに顔色が変わる。
「なあ、兄貴」
「どうした?」
「この召喚カードの説明文の最後の方の部分」
「主になるものは衣食住の提供の部分か?」
コクリと頷く弟の浩二。
「これって、受肉したというか召喚したあとは、兄貴か俺がずっと面倒を見るってことだよな?」
「説明文の内容から解釈すると、そういうことだろうな。ただし、使役することが出来るということは戦わせることが出来るかも知れない」
「……それって、希望的な思考じゃないのか?」
「まぁ、そうとも言う。とりあえず一度、地上に帰還してネットで召喚カードについて検索してみるのもありなんじゃないのか? どうも16階層に来てからネットに繋がらないんだよな」
スマートフォンで先ほどから召喚カードの取引状況を調べているが、アンテナが一本も立っていないので調べるどころか接続することすら出来ない。
幸い、地下15階層では辛うじてネットに繋がったので、地下15階層に上がってから調べるにもありだ。
「そうだな……。兄貴、川魚を持って帰ろうぜ!」
「アイテムボックスに入れられないから、タライごと持っていくことになるぞ?」
「よし! 帰そう」
「それが懸命な判断だな」
タライに入れておいて時間が経った事もあり復活していた川魚を全部、川に戻したあとジープをアイテムボックスに入れて地下15階層に通じる階段を俺達は昇り始めた。
ちなみにジープの前方は、見事までに大破していたのでスクラップ行きが確定した。
地下15階層に上がり中ボスが湧くフロアの前で扉が閉まっていた。
どうやら中ボスが湧いたことで地下16階層に降りる階段に通じる通路側の扉まで閉まったようだ。
順番に中ボスを倒すという事だったので、面倒ごとに巻き込まれないように扉前で開くまで弟と待機。
1時間ほどすると両開きの金属製の扉がゴゴゴゴゴッと言う音と共に拓く。
「――お! 地下16階層から戻ってくるパーティがいたのか! 待たせてしまってすまなかったな!」
見た目50歳前後の男が、気分よく俺達に話しかけてくる。
その後ろには40代と50代の冒険者が11人。
「いえ。俺達も、地下16階層に行って戻ってきたばかりなので」
「へー。まぁ、地下16階層からは日本狼がグループを組んで襲ってくるからな! 戻ってくるという判断が出来たってことは英断だ! 頑張り給えよ! 新人冒険者!」
おっさんがグループを率いて地下15階層の入り口へと戻っていく。
俺達も向かう先は同じなので、後ろをついていき中ボス部屋を抜けて屋台が並んでいる前を通り過ぎてテントの前を歩いていたところで、最初に俺達に地下16階層のウンチクを話してくれた冒険者達が俺達に気がついて手を振ってきたので振り返しておく。
もちろん、愛想笑いは忘れない。
地下14階層に通じる階段前まで移動したあとは、スマートフォンで召喚カードを検索する。
すると召喚カードのオークションでの取引価格は100万円前後と書かれていた。
「安いな」
「地雷カードとか? ――いや、兄貴。これ入札できるのって、日本内閣と公安委員会から選抜された冒険者だけらしいぜ!」
「どういうことだ?」
「いや、俺、その入札している冒険者を検索したんだが、入札している冒険者達全員、日本政府の息が掛かった冒険者だってネットでも噂になってる」
「なるほど……。つまりオークションで取り扱うアイテムも種類によっては安く買い叩かれる可能性があるってことか……」
「可能性じゃないと思う。今、調べた感じじゃ日本の政治家、各省庁の官僚、政財界の子息や活動家連中が作った組織ってらしい。どうやらクビをチョッパされた身内が前進組織を作ったらしい」
「懲りない奴らだな……」
「しかも名前がやばい」
「名前?」
「そうそう。組織名」
「ほう」
「対氷河期治安維持部隊」
おいおい、冒険者に真っ向から喧嘩売っていくスタイルとか、日本政府は大丈夫か?
「――で、治安維持アイテム枠に入る前のオークションでの取引価格は10億円だったらしい」
「なるほど……」
「どうする? 兄貴。召喚カードをドロップしたって、日本ダンジョン冒険者協会に報告するか?」
「しない。そもそも俺達を切り捨てた日本政府を俺は信用していない。それと、召喚カードについては俺か浩二、どっちかが使った方がいい。盗まれると気分が悪いし」
「なら、兄貴が召喚した方がいいと思う」
「そうか? お前、彼女が欲しいとか言ってただろ?」
「流石に、問答無用で攻撃仕掛けてくるやつは無理」
「そ、そうか……」