スキルを獲得した人はいますかー?
ダンジョン地下10階に設置されたエレベーターに乗り地下1階まで上がる。
そのあとは、階段で地上の養老渓谷ダンジョン入り口に戻ったあと、俺は足を止めた。
何故ならダンジョンに入った時とは違って警察官やアサルトライフルを携帯した自衛隊員の数が10倍以上に増えていたからだ。
「(これは、あれだな……。ネットに書き込みされた情報でスキルを獲得した人を探しているって感じだな……)」
実際問題、アイテムボックスとか犯罪に使おうとすればいくらでも利用できる。
逆に運用という平和的手段で物流の現場で使えるのか? と、言えば、俺くらいのアイテムボックス容量があるなら使えなくもないが、普通に大型輸送トラックで運んだ方がいいまである。
つまり、国として見た場合、メリットよりもデメリットの方が大きいということだ。
それに鑑定スキルも有用だ。
なんでも鑑定団顔負けの仕事が一瞬で出来るのだから。
「えー、冒険者の方々にご協力お願いします! スキルを獲得された方は、申し出てください。あとから申し出た場合には冒険者許可証が無効になります」
拡声器を持った警察官が代わる代わる現状を説明する。
まったく、ネットにスキル獲得うんぬんを書き込んだ奴のせいで、こうして、こっちにまで迷惑がかかるのだから、少しは考えてネットに書き込んでほしいものだ。
大方、ちやほやされたいからと見つけたスキル獲得条件をネットに書き込めば時の人みたいな扱いをされて承認欲求が満たせると考えたのだろう。
本当にはた迷惑だ。
「(それよりも、どうしたものか……)」
冒険者許可証が下手したら無効になるのは困る。
だが、俺の特異性を説明するか? 全部? 今まで国は氷河期世代を捨ててきたというのに? 馬鹿正直に国に報告する? それこそナンセンスだろう。
国は誤解しているが、国が氷河期世代を先に捨てて追放したのだ。
なのに、協力を求めてくるとか意味が分からない。
だが、今後、活動していく上で、スキルを隠し通せるのかと言えば未知数。
でも、スキルを所持している事が判明した場合、国はスキルを有している冒険者をどう扱うのか?
それが分からない以上、スキル獲得の有無を国に話すのは賢い選択とは言えない。
なら、することは一つしかない。
俺は、拡声器を持ってスキルを獲得した冒険者は速やかに申し出てくださいと叫んでいる警察官の横を何気ない顔で通り抜けて日本ダンジョン探索者協会の買い取り場へ行き並んでいる人たちの後ろへと移動した。
しばらくすると、俺の収穫した農作物の査定となったが何も問題ないとされたようで、10分ほどで返された。
そして、その期間、ずっとスキルを獲得した人間が申し出るかどうか外を見ていたが、誰一人申し出をする人はいなかった。
「(やっぱりか)」
アイテムボックスと鑑定は、有用すぎるスキルだ。
そして有用すぎるからこそ国は犯罪に利用されたら困ると行動に移す。
たしかに、社会経験の浅い学生とかだったら馬鹿正直に申請しただろう。
スキルを獲得しましたと。
だが、氷河期世代は国に対して疑心暗鬼の世代であり、世の中が、どれだけ理不尽で身勝手で、救いようのない世界なのかを正確に理解している。
何せ若い世代と違って競争率が高かったのだ。
つまり勉強をしていた。
勉強をしていたという事は知識があるということだ。
そして知識があるという事は、騙されにくいし人同士のコミュニケーションも卒なくこなすことができる。
思考しながら、俺は冒険者許可証を取り出し、改札口のような機器にタッチしてから養老渓谷のダンジョンから離脱した。
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