チャプター4 免許皆伝
京子が祖母宅に訪問してから、三日目を迎えた。
今また、初日と同様に二十畳の和室で聖子と京子は向かい合って座っていた。
「今日の午前中まで、集中してよくがんばりましたね。」
祖母から孫娘にねぎらいの言葉がかけられる。
「おばあ様、三日間本当にありがとうございました。」
両手を着いて頭を下げ、孫娘が答える。
「才能ある若者は素敵ね。正直な話、たった三日でここまで上達するとは予想していませんでした。」
「おばあ様の教え方が、的確で理解しやすかったからだと思います。」
「これからも、暇を見つけては自主練習に励んでくださいね。」
「はい。」
「アナタを送り出すにあたって、いくつか伝えておきたいと思います。」
「はい。お願いします。」
「まず、そのチカラを今後どう使うかは、アナタ次第です。」
「…。」
「大いなるチカラには大いなる責任が伴うのです。」
「はい。」
「まあコレは、とあるアメリカのコミックスからの受け売りだけれどね。」
祖母は悪戯っぽい笑顔を見せる。
「…そう…なんですね?」
祖母は若いころ、ニューヨークで暮らしたことがあるのだった。
「真面目な話、これからの人生で、何が正義かは難しいけど…何が悪かは分かりやすいと思います。」
「そのチカラは、自分が正しいと思う時にだけ、大切な人のためにだけ、こっそり使いなさい。」
「はい。そうします。」
「感情のままに大衆の面前でチカラを使うと、後々とても面倒なことになります。」
「かつて東北で雪女と呼ばれた者たちも、おそらく我々の一族の失敗例でしょう。」
「妖怪あつかいされないように、お互い自重しましょうね。」
最後はまるで、自分自身に言い聞かせるような祖母の言葉だった。
これで免許皆伝とまでは行かないまでも、祖母宅訪問前より、京子の気持ちがかなり楽になったのは確かである。
「でもこんなチカラ、一生使わずに済むならそれが一番イイ。」
国鉄で帰路につきながら、京子はそう思うのであった。
コレが1974年1月3日のことである。
ちなみに、ディズニーアニメ「アナと雪の女王」の日本公開は、これから40年先の話であった。