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ショクザイの狛人  作者: 西井あきら
1章 食材の狛人
2/5

共闘志願

清衣(せい)。もう知っていると思うが、湊人も君と同じ妖怪の特性を強く受け継いだ狛人だ。元は鬼の血を引く鬼久井(きくい)という家の人間だったが、十年前に不幸に遭ってね。身寄りのないこいつを一時的に保護して、今は家と親交が深い宇津瀬(うつせ)家の養子になっている」

「そうだったんだ」


 車で移動中、誠が清衣にこちらの生い立ちを簡潔に説明してくれた。

「それにしても……」

 話を聞き終えた後、彼女の視線は隣に座る湊人の方へ。

「湊人くん、だいぶ変わったね。最初誰だか分からなかったよ。表情も豊かになったし、昔よりもスムーズに喋れるようになってるし、そして何より――」


 言葉を区切って、自身の片手をこちらの頭の高さまで持っていく。

「大きくなった」

「ふふ、そうですね」

「身長何センチ?」

「183くらいだったかと」

「わぁ」


 本当に、この十年で色々と変わった。昔の面影はほとんど残っていない。

 変化していない部分は髪と瞳の色くらいか。どちらも赤色である。

「式神も作れるようになったんだね」

「ええ、清衣さんも。――可愛いらしい方ですね」

 彼女の膝の上に乗っているイタチに視線を落とした。


「私風刃(かざば)。よろしくね」

「よろしくお願いします」

 清衣の式神の挨拶が終わると、こちらも膝上に座っていた雷飛が立ち上がり自己紹介を始める。

「俺は雷飛(らいひ)だ。よろしくな」

「よろしく。かっこいい子だね、見た目からして強そう」

「へへーん、そうだろ」

 清衣に褒められ雷飛が得意気に胸を張ったところで、車は鱗界家に到着した。


 周辺の民家に比べ遥かに大きい屋敷。一目見ただけで権力者の家だと理解出来るだろう。

「お祖母ちゃんを呼んでくる」

「はーい」


 客間に通された後、誠は一時退室。そのすぐ後に使用人が茶を運んできてくれた。

「来年の春頃まで、またお世話になります」

 誠が戻ってくる前にここに来た理由を話しておくことに。

「そっか、じゃあ昔みたいにいっぱい――」


 正面に座る彼女は明るい声音で言いかけるが、それはほんの一瞬。次に口を開いたときには一段と暗い、申し訳なさそうな声だった。

「……ごめん。今年は忙しいから、あまり遊ぶ時間はとれないかも」

「成人の儀でしょう?」


 分かっている。今年から来春にかけて、彼女にとって大事な時期であることを。

「なんで知って……」

 僅かに驚きを露わにする清衣から一旦視線を外し茶を飲む。


「……清衣さん」

 湯呑みを置き、意を決して打ち明けた。

「どうか僕も同行させてください。そのためにここに戻って参りました」


 ◇


「数百年前のこと――」

 清衣の境遇を知ったのは十年前、鱗界家に来てしばらく経った頃。

 今は亡き、彼女の父から教わった。


(とばり)という猫又がこの村に現れて、鱗界家の狛人――人魚の血を濃く引く人間を、十八歳を迎えたら差し出せと言ってきた。従わなければ村の人達を全員殺すと脅してね」

「じゃ、じゃあ清衣も……?」


 彼女がこちらと同じ存在であることは出会った瞬間から分かっていた。気配が通常の人間とは異なるのだ。

 清衣は湊人にとって初めての友達だ。そんな彼女が化け物の餌になるのは堪えられない。


「……助かる方法が一つだけある。向こうの要求を呑む際に、僕らのご先祖様はいくつか条件を取り付けた。その内の一つが成人の儀だ。――十八歳の誕生日の翌日、決闘を行う。そこで帳を倒せば食べられずに済む」

「勝てる、の……?」

「……過去の狛人は皆敗れてしまったけど、清衣なら出来るって、僕は信じてるよ」

 言葉とは裏腹に、眼鏡越しの青い瞳は暗かった。


「……清臣(きよおみ)さん、僕――」


 ◇


 襖が開き、誠と着物姿の老婆が入ってきた。

「お祖母ちゃん」

 老婆の名前は鱗界(りんかい)静香(しずか)。清衣の祖母であり、ここ鱗界家の現当主である。

「……久しいな」

「ご無沙汰しております、ご当主様」

 こちらに目を向ける静香に座礼で返す。


「ねぇお祖母ちゃん、湊人くんが成人の儀に参加したいって……」

「なんだもう聞いていたのか」

 言いながら移動して清衣の隣、床の間に一番近い席に座る。

「言葉の通りだ。本人たっての希望で参加を許可した。こちらとしてもありがたいからな。お前もその方が――」


「やだ」

 静香が言い終わる前に清衣は拒否を示した。

 短いながらもはっきりとした言葉で。

「なんでもっと早く言ってくれなかったの?」

「そんなの、お前がそうやって反対するからに決まってるだろう」


「そりゃするよ」

 むっとした顔をして立ち上がると襖の方へ歩いていく。

 彼女がここまで感情を露わにするのは再会してからこれが初めて。十年前でもあまりなかったことだ。


「待ちなさい清衣どこ行くんだ」

「アオのとこ」

 慌てた様子の誠にそう返し、清衣は部屋から出て行ってしまった。

「ど、どうすれば…… 」

「問題ない、手立てならある」


 戸惑い気味のこちらに対し、静香は至極冷静に茶を飲み、言葉を続ける。

「準備が出来たら連絡するから、お前は清衣と話してこい。少しでも気に入られるようにな」

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